ネコの腎移植は、慢性腎臓病(CKD)の末期に対する唯一の根治的治療法です。米国ではネコの腎移植に実績があり、国内では岩手大学とオールハート動物リファーラルセンターの2施設で腎移植を行っています。(2025年12月現在 編集部調査による)
そこで今回は、国内でのネコの腎移植について紹介します。
腎移植の概要
1.腎移植のタイミング
救急救済的な治療ではなく、内科的治療による維持が困難な腎不全を大まかな基準としています。
2.レシピエントの条件
腎不全以外に重大な基礎疾患を持っていないこと、多発性嚢胞腎などを含む内科治療による維持困難な腎不全(例:慢性腎不全ステージ4:血清クレアチニン(Cre)値>5.0 ㎎/dL)を大まかな基準として設定しています。
また、過去に尿路感染症に罹患したことがある場合、シクロスポリンを事前に2週間ほど服用して感染が再発しないかどうかを確認する必要があります(シクロスポリンチャレンジテスト)。
3.ドナーについて
感染症や全身疾患に罹患していない、健康体が求められます。適切なドナーが現れれば、手術までの待機期間は約2週間です。同居ネコが最適とされています。片腎になったからといって、腎不全になるということはありません。しかし、念のためドナーに対してもレシピエント同様に、術後は腎臓病早期処方食への切り替えを勧めています。
ちなみに米国では、ドナーがシェルターなどの動物保護施設にいるネコの場合、移植処置の結果に関係なく、手術後にドナーネコを引き取る必要があります。そして、すべてのドナーは通常のペットとして家庭環境で管理され、定期的な獣医師のケアを受けることが推奨されています。
4.手術の概要
ドナーから腎臓をひとつ取り出す手術を行い、摘出された腎臓は臓器保存液(リン酸緩衝ショ糖液)で保存されます。ドナーは3日程度で退院することが一般的です。レシピエントの手術では、ドナーから摘出した移植腎はレシピエントの腹部背側におかれます。本来の腎は摘出せずそのままの状態で残し(移植腎が機能しなかった場合の保険)、移植腎を髪の毛よりも細い糸でレシピエントに繋げます。
5.手術後の管理
移植後は、拒絶反応を抑えるために一生涯免疫抑制剤を内服します。一般的には1日2回の内服ですが、1日1回に変更することもできます。定期健診は、初めのうちは週1回とし、その後徐々に間隔を延ばしていきます。最終的には3カ月~6カ月に1回の間隔まで延ばす形です。
腎移植手術成績
岩手大学の片山氏が執刀したケースでは、以下の成績となっています。
<生存>
・約4年(1例)
・約3年(2例)
・約2年(1例)
・約1.5年(1例)
<術後合併症死>
・3例
6カ月生存率:62.5%
米国では、以下の報告があります。
6カ月生存率:65%
3年生存率:40%
また、ペンシルバニア大学の報告では、以下の通りとなっています。
退院:90%
1年後生存:約60~70%
腎移植後の平均寿命:2~3年
そのほか、腎移植を受けたネコの公表および未発表の結果に基づくと、70%~92%が退院し、生存期間の中央値は360〜613日の範囲だったとの報告があります。移植手術後、13年間生存したネコが2匹いた例もあるとのことです。
起こりやすい合併症
高血圧症、尿管狭窄、血栓塞栓症、移植腎捻転による虚血壊死、移植腎の機能遅延、急性シクロスポリン毒性、急性拒絶反応、感染症、腫瘍、糖尿病などが挙げられます。
腎移植にかかる費用
約150万円~とされています。
まとめ
国内でもネコの腎移植が広く周知されることで、この技術が普及すると考えます。もし適合する末期慢性腎不全のネコがいるようでしたら、ひとつの選択肢として飼い主に勧めてみるのもよいかもしれません。
獣医師D
【参考情報】
1.岩手大学動物病院
4.猫の慢性腎不全に対する腎移植の臨床的考察 Journal of Veterinary Medical Science 58巻(1996)7号p655-658
5.Perioperative morbidity and long-term outcome of unilateral nephrectomy in feline kidney donors: 141 cases (1998–2013) JAVMA • Vol 248 • No. 3 • February 1, 2016 275-281
6.TODAY’S VETERINARY PRACTISE Insights into Feline Kidney Transplant
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