8月後半から秋にかけては、酷暑のピークを越えたことで、飼い主さまがノミ・ダニ予防や皮膚ケアへの意識を緩めやすい時期です。
一方で、イヌにとってはノミ寄生、季節性アレルギー、夏の湿度や水遊びの影響を受けた外耳炎など、「かゆみ」を主訴とするトラブルを見直すべき季節でもあります。
もちろん、秋に特定の疾患が必ず増えるわけではありません。
地域の気温・湿度、生活環境、犬種、予防歴によって発生状況は異なります。
しかし、夏の皮膚トラブルを持ち越さず、慢性化・再発化を防ぐためには、夏の終わりから秋にかけての診療と飼い主さまの理解が重要です。
秋も続くノミ対策――「涼しくなったから終わり」ではない
ノミは夏の寄生虫というイメージがありますが、気温が下がり始めたからといって、ただちにリスクがなくなるわけではありません。
ESCCAPのガイドラインでは、ノミ寄生は夏から秋にピークを示すことがある一方、年間を通じて発生し得るため、生活環境や地域のリスクに応じた継続的な対策が必要とされています。
ポルトガルで実施されたイヌ・ネコ2,000頭超の疫学調査では、イヌのノミ寄生リスクは冬と比較して春・夏・秋に高く、予防薬を使用していないことが寄生と強く関連していました。
日本の状況にそのまま当てはめることはできませんが、少なくとも「秋だから予防は不要」とは言えないことを示すデータです。
ノミアレルギー性皮膚炎(FAD)が疑われるイヌでは、ノミを目視できないことだけで除外しないことが重要です。
少数のノミによる咬傷でも、感作個体では強い掻痒を示すことがあります。
腰背部から尾根部、後肢、腹部の掻痒や脱毛、丘疹、痂皮といった所見がある場合には、ノミ対策の実施状況を改めて確認しましょう。
また、対策はFADが疑われるイヌだけでは不十分なことがあります。
多頭飼育では同居動物を含めた予防、寝具・カーペット・ソファなど生活環境への配慮も必要です。
FADでは、ノミ唾液抗原への曝露を最小化することが管理の基本となります。
秋は、季節性アトピーを振り返る好機
秋は、イヌアトピー性皮膚炎の季節性を整理するタイミングとしても有用です。
夏から秋にかけて掻痒が悪化するイヌでは、草地への接触、散歩コース、屋外活動時間、室内環境、シャンプー頻度、ノミ予防の実施状況などを、飼い主さまとともに振り返る必要があります。
2026年に報告された前向き研究では、季節性要素をもつイヌアトピー性皮膚炎において、秋は皮内反応試験での全体的な陽性率、および花粉関連アレルゲンへの陽性率が高い傾向を示しました。
対象は26頭と限られているため一般化には注意が必要ですが、秋は「今年の悪化パターン」を記録し、検査や長期管理の方針を検討する時期として位置付けるのもよいでしょう。
重要なのは、アレルギーを疑った場合でも、すぐに単一の診断名へ結び付けないことです。
ノミ、細菌・マラセチアの二次感染、食物有害反応、接触刺激、外部寄生虫などを含め、掻痒の閾値を押し上げる要因を一つずつ評価することが大切です。
外耳炎は、夏の影響を秋に持ち越さない
イヌの外耳炎も、夏から秋にかけて再評価したい疾患です。
気温・降雨・湿度と、外耳炎での受診頻度に関連があることを示した報告がある一方、地域によっては明確な季節性を認めなかった調査もあります。
そのため、「秋に外耳炎が増える」と単純化することは適切ではありません。
ただし、夏の高温多湿、水遊び、シャンプー、皮膚炎の悪化などにより耳道環境が変化し、秋に症状が表面化・再燃することは臨床上経験されている先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
垂れ耳、耳道狭窄、耳毛、過去の外耳炎、アトピー性皮膚炎などをもつイヌでは、耳を掻く、頭を振る、耳が臭う、耳垢が増えたといった変化を早期に受診につなげるよう、飼い主さまへひとことお声がけしておくとよいでしょう。
耳科診療では、耳鏡検査と細胞診を基本とし、再発例・難治例では培養検査、基礎疾患の再評価、飼い主さまの投薬・洗浄手技の確認まで含めた介入が必要です。
「耳だけの問題」とせず、皮膚疾患の一部として捉えることが、再発予防につながります。
飼い主さまに伝えたい、秋の3つのポイント
秋の予防啓発では、以下の3点を簡潔に伝えると実践につながりやすくなります。
・涼しくなっても、ノミ・ダニ予防を自己判断で中止しない
・掻く、舐める、脱毛する、耳を振るといった変化を見逃さない
・症状が軽いうちに受診し、悪化した時期や生活環境を記録する
夏の終わりは、イヌの「かゆみ」を一時的な不調として終わらせず、再発性・慢性疾患の入り口として見直す好機です。
ノミ、アレルギー、外耳炎を別々に扱うのではなく、個々のイヌの掻痒閾値を構成する要因として統合的に評価することが、秋以降のQOL向上と治療継続につながります。
獣医師B
【参考文献】
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【参考資料】
European Scientific Counsel Companion Animal Parasites(ESCCAP). Control of Ectoparasites in Dogs and Cats: ESCCAP Guideline 03.






