イヌの膀胱結石には、ストルバイト、シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウム、ケイ酸塩、シスチンなどがありますが、全結石の9割がストルバイトとシュウ酸カルシウムになります。発生する原因はその結石の種類によって異なり、フードの内容、飲水量、遺伝的背景、膀胱炎などが複雑に絡み合って起こります。今回は膀胱結石の主な症状と、その治療法についてお伝えします。
主な症状
膀胱結石の種類に関わらず、血尿、頻尿、排尿障害および有痛性排尿が主な症状として見られます。しかしながら、この症状は膀胱結石に特有の症状ではなく、膀胱炎や膀胱の腫瘍でも同様の症状が見られることから、X線検査や超音波検査および尿検査によって、これらの疾患の鑑別を慎重に行うことが必要です。
主な治療
ストルバイトの主な治療法は、食事などによる溶解療法です。尿のpHを6以下に低下させ、マグネシウム制限食にしてもらいます。また、膀胱炎が併発していることも多く、その場合はウレアーゼ産生菌によるpHの上昇が見られることから感受性試験に基づき、抗生剤の内服も併用します。
シュウ酸カルシウムは溶解療法が不可能であることから、シュウ酸カルシウム結石と診断された時、外科的に摘出することが必要です。
尿酸アンモニウムはダルメシアンなど特定の犬種で遺伝的に尿中に排泄されることが報告されており、根本的な治療は困難です。他にも、重度の肝不全や門脈体循環シャントでも見られ、これらの治療が尿酸アンモニウム結石の治療にもなります。
ケイ酸塩やシスチンに遭遇することは非常に稀ではありますが、必要であれば、外科的に摘出します。シスチンはpHがアルカリで溶解するので、食事療法と飲水量を増やすことも有効です。
まとめ
イヌの栄養学の研究が進み、エビデンスに基づくドッグフードが作られ、改良を重ねているにもかかわらずいまだになくなっていない膀胱結石ではありますが、その背景として結石の形成には複雑な相互作用が関わっていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
膀胱結石は膀胱から石が消えて無くなったからといって終わりにならないことも少なくありません。体質や食事内容、おむつなど膀胱炎になりやすい飼育環境や、結石が形成されやすい状況が変わっていなければ再発する可能性が高まります。
そのため、治療後も継続的な管理が必要になることを飼い主さまへお伝えし、再発防止のために注意しなければならないポイントをしっかりお伝えしていきましょう。
獣医師N
尿沈渣に関しては会員ページの資料でも情報提供を行っております。”尿検査からわかること”(第14回日本獣医内科学アカデミー学術大会ランチョンセミナー)