ネコの急性腎障害(AKI)とAIMの関連について

ネコは、さまざまな原因で腎臓に障害が起きます。急速に腎機能が低下する状態を急性腎障害(AKI;acute kidney injury)といい、ネコの場合、5~6歳齢頃にAKIに罹った後、腎機能が回復しないままに慢性腎臓病(CKD;chronic kidney disease)、尿毒症と進行し、亡くなることが多いとされています。2023年現在、ネコのAKIには、AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)という新しい血中タンパク質が関わっていることが発見され、AIM薬の開発・研究が行われています。そこで今回は、ネコのAKIとAIMの関連について紹介します。

AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)とは

AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)とは、プログラムされた細胞死であるアポトーシスを阻害するマウスマクロファージ特異的な新しい血中タンパク質のことをいいます。AIMは東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 分子病態医科学部門 教授である宮崎徹先生により発見されました。

健康時には、AIMは抗体の一種である免疫グロブリンM(IgM)に結合し不活性の状態ですが、体内に老廃物が溜まるとAIMは老廃物と結合することにより、マクロファージなどの食細胞に貪食され、不要な物質を除去する作用を持っています。

急性腎障害(AKI)とAIMの関連について

ネコAIMは急性腎障害(AKI)の重要な原因であると報告されています。ほかの動物では、腎臓に老廃物が蓄積すると、AIMがIgMから離れることで活性化し、老廃物とAIMが結合することで、近位上皮細胞が強く発現するKIM-1(kidney injury molecule-1)を介して貪食されます。

しかし、ネコAIMはマウスAIMの約1,000倍の強さでIgMに結合しており、IgMから離れることができず近位上皮細胞による貪食が抑制され、慢性の炎症が生じることが明らかになりました。つまり、ネコAIMはマウスやヒトAIMと異なり、AKIが生じても活性化せず尿中に移行しないのです。

近年行われているAIM薬の開発や研究について

AIMをネコ型に遺伝子改変したマウス(AIM猫化マウス)にクリップで人工的に虚血再灌流(IR)を実施することによりAKIを発症させ、組み換え技術で作成したマウスAIM(rAIM)を投与する実験が行われました。

すると、rAIMを投与しないマウス(rAIM(-))はIR後3日目に全て死亡したのに対し、rAIMを投与したマウス(rAIM(+))は80%生存し、AKIに対するAIMの補充療法の有効性を示す結果となりました。

冒頭にお伝えしたように、ネコでは5~6歳齢頃、いろいろな原因で腎臓が障害され、AKIに罹った後に腎機能が回復しないままに慢性腎不全(CKD)に進行し、尿毒症となり亡くなることが多いとされています。そのため、AIMを補えばAKIを防ぎ、ひいてはCKDを防げるはずとAIM薬の開発が進んでいます。

まとめ

今回、ご紹介した宮崎徹先生は2022年4月から一般財団法人AIM医学研究所を立ち上げ、ネコのAIM治療薬の開発をされています。開発が進めば、新たな治療法のひとつとなるでしょう。

<参考>
1)国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース:猫の腎不全が多発する原因を究明-猫ではAIMが急性腎不全治癒に機能していない-2016
2)Miyazaki, T., Hirokami, Y., Matsuhashi, N., Takatsuka, H. & Naito, M. : Increased susceptibility of thymocytes to apoptosis in mice lacking AIM, a novel murine macrophage-derived soluble factor belonging to the scavenger receptor cysteine-rich domain superfamily. J Exp Med. 189:413-422 (1999).
3)  Sugisawa, S., Hiramoto, E., Matsuoka, M., Iwai, S., Takai, R., Yamazaki, T., Mori, N., Okada, Y., Takeda, N., Yamamura, K-I., Arai, T., Arai, S. & Miyazaki, T. : Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease. Sci. Rep. 6: 35251 (2016).
4)高山淳二,高岡昌徳,村松靖夫:ラットおよびマウスにおける腎機能低下モデルの簡便な作製方法-急性および慢性腎不全モデル-.日薬理誌 131:37-42 (2008)

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