イヌのレプトスピラ感染症

レプトスピラ感染症は人獣共通感染症であり、イヌだけでなく多くの動物種に感染します。感染した動物は急性の感冒様の症状から、黄疸・出血・発熱・腎不全を伴う症状を示す場合があります。
一方で感染してもほとんど症状を示すことなく、菌を排出し続ける場合があります。動物の種類によっては数週間から数年に渡り、菌を排出します。
人間では4類感染症に定められ、動物では一部の血清型が家畜伝染病予防法により届け出義務があります。

レプトスピラ感染症の発生状況

レプトスピラ感染症は世界的に広く分布し特に高温多湿の熱帯亜熱帯で発生が多く、日本では関東以西での発生が主となっています。
イヌでの発生状況は減少傾向ですが、毎年30件前後の発生報告があります。しかし、この数字は家畜伝染病予防法により届け出が行われた数値で、診断できなかった例や届け出されなかった例などは含まれていないため、実際の発生はもっと多いと考えられます。

ヒトでの発生状況は毎年20件前後の発生が報告されています。
多くは農作業・アウトドアスポーツ等における感染ですが、都市部でげっ歯類ネズミとの接触による感染も増加しています。
そのほかに輸入動物取り扱い業者の感染報告もあります。

レプトスピラ感染症の診断

レプトスピラ感染症の診断のためには、禀告、ワクチン接種歴、臨床症状、菌の動態、抗体の推移等も考慮して総合的に行わなければなりません。
潜伏期間は、数日から20日程度で、感染後1〜3週間後に抗体価は最大になります。菌は発症前から間欠的に血中に現れ、抗体価の上昇とともに血中から消失し、尿中に排出されます。
菌の検出法として、顕微鏡法・培養法があります。
さらに特徴的な臨床兆候に加え、最近では血液を用いた遺伝子診断法・血清学的診断法の組み合わせにより確定診断します。

その他の検査としては尿検査ではビリルビン尿、尿比重の低下、顆粒円柱、顆粒球と赤血球の増加、尿沈渣の暗視野顕微鏡下での菌体の確認を行います。
画像検査としてレントゲン検査・超音波検査による腎の腫大、肝の腫大、肺野の間質性、肺胞性の炎症浸潤像、腎盂、腎実質の確認を行います。

レプトスピラ感染症の治療

レプトスピラ感染症を罹患したイヌは、重度の腎障害、肝障害によるショック状態、DICの状態となって来院する場合も多く、積極的な治療が必要です。
さらに人獣共通感染症のため病院スタッフ、飼い主への感染防止も重視する必要があります。

基本的には対症療法が中心で、腎障害、肝障害に対する治療、消化器症状に対する治療、DICに対する処置が必要となるケースも多いです。肺出血症候群等により呼吸障害が認められる場合には、酸素吸入等の処置も必要となります。
病原治療としてはペニシリン、ドキシサイクリン抗菌剤を使用します。
第1世代のセフェム系、クロラムフェニコールの有効性は低く、フルオロキノロンの併用には賛否もありますが推奨する文献もあります。
腎臓からの除菌には、ドキシサイクリンが有効で、回復後にキャリアーとなることを防ぐためにも必ず投与すると良いでしょう。

まとめ

イヌのレプトスピラ感染症は未だに発生がある感染症です。イヌ以外にも感染し多くの動物が保菌動物になりえるので注意が必要です。
イヌでのワクチン接種は普及しているものの血清型が異なると予防できないことがあるので地域や症状的に疑いのあるイヌがいた場合は注意して検査・治療を行い届け出る必要があります。

獣医師M

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