ネコの膵炎の原因は未だ明らかにされていませんがイヌでみられるような、典型的な嘔吐・下痢・腹痛といった臨床症状が認められないことがあり、診断が難しいことがあります。
また糖尿病を罹患している場合、膵炎を併発しやすいため、糖尿病の診断をした場合はあわせて膵炎についても疑う必要があります。
ネコの膵炎
急性膵炎よりも慢性膵炎の発症が多く、好発品種は特に認められていません。ネコの膵炎の原因は未だ明らかにされていませんが膵臓における膵酵素の不適切な活性化により膵臓組織に炎症が引き起こされた結果と考えられています。
また、ネコの解剖学的な特徴として膵管が総胆管と合流して十二指腸に開口していることなどが膵炎の発症と関連していることも示唆されています。ネコの膵炎は炎症性腸疾患・肝疾患・肝リピドーシスといった膵臓周囲の臓器と関連していることがあり、特に肝臓と消化管の炎症性疾患が同時に発生していることが多く三臓器炎と呼ばれています。
さらにネコでは糖尿病の原因の1つに膵炎があると考えられています。糖尿病を患うネコには膵臓の炎症が認められることがあり、一方で膵炎を患うネコはインスリン抵抗性を呈することがあるため、膵炎と糖尿病は互いに相互関係のある重要な疾患と考えられています。
ネコの膵炎の診断が難しい理由
ネコの膵炎の臨床兆候はイヌとは異なります。急性膵炎の発症が多いイヌとは異なり、ネコでは慢性膵炎の方が多く認められます。そのため、臨床兆候は間欠的な食欲不振や嗜眠など非特異的なものが一般的です。無兆候または臨床兆候が分かりづらいため飼い主さん自身が異変に気づきにくく、獣医師も診察時には苦労します。
なお、急性膵炎を発症した場合はイヌと同様に嘔吐や下痢、腹痛といった典型的な症状が認められることが多いため慢性膵炎に比べると診断しやすいでしょう。
膵炎の確定診断は病理組織検査が必要となりますが試験開腹もしくは腹腔鏡下でサンプルを採取しなければならず、体への侵襲性が高いため、実際に実施できることは稀です。診断は総合的に判断する必要があります。膵炎が疑われる場合は糖尿病も考慮しながら血液検査、エコー検査、尿検査を実施することが大切です。
身体検査では脱水・可視粘膜蒼白・黄疸などがよく認められ急性膵炎の症例では触診で腹痛を訴えることがあります。また、慢性膵炎の症例では体重減少や削痩などを呈していることがあります。食欲不振や消化器兆候が認められるネコでは消化器疾患を鑑別するために内視鏡検査を実施することもあります。
膵炎の治療
膵炎の治療は輸液、疼痛管理、制吐、食事管理、そして併発疾患の管理です。
血流を改善させることが最も重要なため、経静脈による輸液療法を行います。
悪心や嘔吐のあるネコにはマロピタントなどの制吐剤が有効です。ネコは長期的に食事がとれない期間が続いてしまうと肝リピドーシスや消化管粘膜の萎縮につながってしまうので、制吐剤を使用しながら早い期間から食事を開始させることが推奨されています。
ネコの膵炎に対する抗菌薬の効果は未だわかっていません。
グルココルチコイドに関してはさまざまな見解がありますが、胆管炎などを併発している場合は有効かもしれません。
まとめ
ネコの膵炎に関しては慢性膵炎が多いため、飼い主さん自身も気づきにくく診断が困難です。非特異的な臨床症状でも常に疑うことが重要です。また、総合的な判断が必要になるため、血液検査の他に尿検査や画像検査などを行い見落とさないように心がけましょう。
獣医師M
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