糖尿病になった場合、その治療として基本的にインスリンの投与が必要です。これはイヌもネコも共通していますが、インスリンコントロールの目標には若干の違いがあります。その違いについてきちんと理解して治療を行わないと、合併症を発症してしまったり、医療事故につながったりすることがあるので注意が必要です。イヌとネコそれぞれについて、インスリンコントロールの目標ポイントについて解説します。
イヌのインスリンコントロール
インスリン療法では血糖値をどの範囲にコントロールするか、前もって目標を立てる必要がありますが、イヌでは200mg/dL程度の軽度高血糖であっても尿糖が陽性になります。その状態が持続すると白内障や腎症が現れてしまうので注意が必要です。そのため、イヌのインスリンコントロールの目標は、血糖値が80〜180mg/dL程度の範囲で厳密に設定しなければなりません。高血糖は合併症のリスクが出てしまいますが、インスリンが効きすぎた場合は低血糖症になってしまうリスクがあり、低血糖になると無気力になったりケイレン症状がみられたりすることがあります。
糖尿病と診断したら、数日間入院させて適正なインスリン療法を行うために血糖曲線を作成し、インスリンの作用時間の長さ、作用の強さを調べます。投与前の血糖値と、インスリンが作用して最も血糖値が下がっている値の差が200〜250mg/dLになるように、インスリンの投与量を調節します。大事なのは、最初から血糖値を正常範囲に近づけようとはしないことです。同じ量を数日投与していると、徐々に作用が強く出てくることがあるためです。
インスリンを過剰に投与した場合、「ソモギー効果」がみられることがあります。これは体が低血糖に陥ると、グルカゴンやグルココルチコイド、カテコラミンといった血糖値を上昇させるホルモンの分泌量が増加し、血糖値が急激に上昇する現象です。これら血糖値を上昇させるホルモンは強力なインスリン抵抗性があるため、その後にインスリンを投与しても1日程度は血糖値が下がらなくなります。
通常のインスリン治療を始めても想定したコントロールができない場合は、併発疾患を見逃している可能性があるため、全身的な精査を行う必要があります。
ネコのインスリンコントロール
ネコの場合、イヌよりも厳密なコントロールは必要ないとされています。血糖値は100〜300mg/dLの範囲がコントロール目標になります。治療開始時はイヌと同じように入院させて血糖曲線を作成したいところですが、ネコはストレスや興奮で血糖値が大きく変動するため、性格を見極めることが大事です。
治療の目標は、適正体重の維持と多飲多尿の消失といった臨床症状の改善、合併症である末梢神経障害の予防です。ネコは血糖値が300mg/dL未満であれば尿糖は陰性になり、糖尿病の症状もみられないと考えられています。イヌと違い、白内障や腎症といった合併症はほとんど問題にならないため、血糖値が目標範囲内にあれば健康に生活を送ることが可能です。
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