腹腔内の手術では、手術後に急性膵炎を発生した症例が多く報告されています。しかし、腹腔内操作を行っていない手術においても、術後に急性膵炎が発生する可能性が報告されました。そこでこの記事では、「白血球減少症を伴った術後急性膵炎の猫の1例」という論文をご紹介します。
症例
症例の対象は、14 歳齢の避妊雌の長毛雑種ネコです。右前肢の滑膜肉腫の治療のために、断脚術を実施しました。
経過
術後の2日間は良好に経過しましたが、突然食欲が廃絶し、全身状態の悪化がみられました。血液検査では、好中球減少(1,110/μl)を主体とした、白血球減少症(1,790/μl)が認められました。また、その後、軽度の高窒素血症、血清総ビリルビン濃度の上昇、黄疸などの症状がみられたため、腹部超音波検査を実施したところ、膵臓の腫脹が明らかになったのです。
さらに、ネコ膵特異的リパーゼの定性検査で強陽性を示したため、術後急性膵炎と診断されました。その後、急性膵炎に対する内科的治療を実施した結果、血液検査所見と全身状態が改善し、良好に経過しています。
考察
今回行った手術は前肢の断脚手術であり、腹腔内臓器に機械的な刺激はありませんでした。小動物が膵炎を起こす原因としては、高脂血症・薬物・外傷・感染・虚血など、さまざまなものが考えられます。しかし、本症例では高脂血症は確認されておらず、外傷や感染の既往歴もありませんでした。さらに、これまでに膵炎との関連が報告されている薬物も投与していません。
ただし、今回は断脚手術後の3日目から臨床症状が発現していることから、なんらかの麻酔、あるいは手術侵襲が関与している可能性が考えられるかもしれません。
なかでも、手術中の血圧低下に伴う膵臓局所の虚血は、膵炎の原因のひとつといわれていますが、手術中の血圧は安定しており、大量の出血もなく、手術時間も1時間以内であることから、明らかな原因については解明できませんでした。
しかし、膵炎の原因の大多数は特発性であり、ネコでも本症例のような術後急性膵炎が発症する可能性を念頭に起き、慎重な周術期管理を行う必要があるでしょう。
まとめ
本症例より、腹腔内操作を行っていない手術を行った場合においても、術後に急性膵炎が発生する可能性が示されています。これと同時に、白血球減少症が猫の急性膵炎の初期症状として認められる可能性があることも示唆されています。さまざまなケースを想定し、慎重な周術期管理を行ってください。
<参考文献>
・板本 拓也, 根本 有希, 伊藤 晴倫, 砂原 央, 堀切園 裕, 井芹 俊恵, 板本 和仁, 谷 健二, 中市 統三, 白血球減少症を伴った術後急性膵炎の猫の1例, 日本獣医麻酔外科学雑誌, 2021, 52 巻, 2 号, p. 31-35,