イヌとネコの高血圧に関しては、アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)により、イヌとネコにおける全身性高血圧の同定、評価および、管理のガイドラインが設けられています。そこでこの記事では、その概要をご紹介します。
高血圧の定義と分類
全身性高血圧は、持続的な収縮期血圧の上昇のことを指し、一般的に以下の3つに分類されます。
1.状況高血圧
正常血圧の動物において、院内での測定プロセスの結果として起こる血圧の上昇で、興奮や不安による自律神経の変化に起因する
2.二次高血圧
既知の疾患や状態に伴う持続的で病的な血圧上昇、血圧の上昇を引き続き起こすことがわかっている治療薬の投与や毒物物質の摂取に伴う高血圧
3.特発性高血圧
潜在的な原因となる疾患プロセスがないなかで生じる高血圧
イヌとネコにおける高血圧の診断
高血圧の診断は、以下のような手順と基準値をもとに診断します。
イヌとネコにおける高血圧の測定手順
1.測定環境は、隔離された静かな部屋で他の動物と接触しないようにする。一般に、飼い主が立ち会う。患者は無鎮静で、血圧測定を試みる前に5〜10分間、測定室に馴致させる。
2.動物が快適な体位で保定する。心基底部からカフまでの垂直距離を制限するため伏臥位か横臥位で優しく保定する
3.カフの幅は、カフ装着部位の周囲長の約30〜40%とする
4.動物の体格や忍耐力、使用者の好みに応じてカフを四肢や尾に装着する
5.測定は、同一の測定者が行い、動物が落ち着いていて、動いていないときに行う
6.最初の測定値は破棄し、一貫した数値を5〜7回連続して測定する
7.測定値の平均をとり、血圧測定値とする
イヌとネコにおける高血圧の基準値
正常血圧:収縮期血圧<140mmHg
前高血圧:収縮期血圧140~159mmHg
高血圧:収縮期血圧160~179mmHg
重度の高血圧:収縮期血圧≧180
治療適応となる高血圧
血圧が高いほど、高血圧症よって体の臓器にダメージが及ぶ標的臓器障害(TOD)のリスクが高まるため迅速な対応が必要です。
1.標的臓器障害(TOD)の徴候が既にあり、収縮期血圧が160mmHg以上あるなら直ぐに治療を始める
2.収縮期血圧が180mmHg以上の場合には、1~2週間後に再検査を行い、繰り返し高血圧が認められる場合には治療を開始する
3.収縮期血圧が160mmHg以上の場合は、4~8週間後に再検査を行い、繰り返し高血圧がある場合には治療を開始する
高血圧症治療の目的は、血圧を適正にすることで標的臓器障害の発症確率と重症度を下げることです。目標血圧は、収縮期血圧が140mmHg未満の正常血圧ですが、収縮期血圧が160mmHg以上のときには、最低限の治療目標ラインとして将来標的臓器障害になる可能性の低域(収縮期血圧が160mmHg未満)を目標とします。
イヌにおける高血圧の管理
イヌの高血圧症は、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や慢性腎臓病が原因である二次性高血圧が特に多い傾向のため、これら基礎疾患の治療と高血圧症の治療を同時に始めます。また、高血圧症により標的臓器障害(TOD)が認められる場合には、それに対する治療も必要です。
イヌの高血圧症に対する治療は降圧剤による治療が主体となり、ベナゼプリル(フォルテコール)、エナラプリルが第一選択薬として用いられます。難治性の血圧管理の際には、テルミサルタン(セミントラ)やアムロジピンなど、他の薬の併用もご検討ください。
ネコにおける高血圧の管理
ネコの高血圧症は、甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病が原因である二次性高血圧が特に多い傾向のため、これら基礎疾患の治療と高血圧症の治療を同時に始めます。また、イヌ同様に高血圧症により標的臓器障害(TOD)が認められる場合には、それに対する治療も必要です。
ネコの場合、全身または腎内のRAAS軸が高血圧の病因や維持に関与している可能性があるため、高血圧症に対してカルシウムチャネル拮抗薬、特にアムロジピンベシル酸塩が降圧治療の第一選択薬となります。難治性の血圧管理の際には、テルミサルタン(セミントラ)やベナゼプリル(フォルテコール)など、他の薬の併用もご検討ください。
まとめ
イヌやネコの全身性高血圧の病態生理学、測定、治療に関する理解は発展途上です。それに伴い、ガイドラインも変更されるため、原文をまめに確認しておくと安心です。しっかりチェックして日々の診療にお役立てください。
獣医師U
〈参考文献〉
アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)合意声明 -犬と猫における全身性高血圧の同定、評価および管理のガイドライン, 日本獣医腎泌尿器学会誌, 2020, 12 巻, 1 号, p. 50-66,