近年注目されている重症熱性血小板減少症(SFTS)について

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome以下SFTS)は、2011年に中国において新しい感染症として報告されました。病原体はSFTSウイルスで、アジア諸国で発生が報告されているマダニ媒介の人獣共通感染症です。この記事では、SFTSの疫学や症状、予防について解説します。

重症熱性血小板減少症(SFTS)の概要と疫学

SFTSは、主にフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)が保有しており、SFTSウイルスを保有しているマダニがヒトを含む動物を吸血することで感染します。ヒトを含むほぼすべての哺乳動物に感染する人獣共通感染症です。ダニからの感染だけではなく、ヒトからヒト、発症ネコからヒト、発症イヌからヒトへと、マダニを介さない感染も報告されています。

国内では、2017年4月にSFTS発症ネコ、2017年6月にSFTS発症イヌが確認されて以降、継続的にネコおよびイヌにおけるSFTSの発生が確認されており、2017年以降もネコおよびイヌにおけるSFTSの症例確認数は増加傾向です。

ただ、ネコでは2019年以降、毎年100例を超える発症例が確認されていますが、イヌはネコに比較して症例数は少ないと報告されています。SFTS症例は、西日本を中心に発生が確認されていましたが、現在では東日本や北陸においてもSFTS発生のリスクは上昇傾向にあると考えられるでしょう。

さらに、 発症動物からの飼い主あるいは獣医療関係者へのマダニを介さない感染が毎年数例報告されており、獣医学的にも公衆衛生学的にも重要な感染症といわれています。

SFTS症例 イヌやネコの特徴的所見

ネコやイヌもヒトと同様の症状がみられ、主な徴候および検査所見は、元気・食欲消失、発熱、白血球数減少、血小板数減少などです。これらに加え、ネコでは嘔吐や黄疸、総ビリルビンと血清アミロイドAの上昇が、イヌではCRPの上昇が高率に認められます。

しかし、イヌに関しては、症例数が少ないにも関わらず、抗体保有犬が多いことから、不顕性感染が多いと考えられており、日本におけるネコの致命率は64.7%とヒトよりも重症になりやすく、イヌでは26%とヒトよりも軽症で済むことが多い傾向です。また、ネコでは妊娠猫のSFTSウイルス感染による、流産症例も確認されています。

ネコが来院した場合、SFTSを疑うポイントとその対処法

ネコにおいては1年を通してSFTSの発生が確認されていますが、特に2月から発生数が上昇し、3~5月に発生数がピークを迎えます。この時期に、外飼いで、ぐったりしており、血小板数の減少と、白血球数の減少が認められるネコが来院した場合、SFTSの可能性を強く疑ってください。

このような症例で来院したら、SFTSかもということを念頭におき、症例の隔離や、獣医療関係者の感染防護具の適切な装着など、慎重に診察を進めるようにしましょう。

まとめ

SFTSは、致死率の高い人獣共通感染症です。流行地では、飼育動物へのマダニ対策、野外の衰弱した動物への接触回避など、感染防御対策を徹底するようにしましょう。また、未発生地でも近隣の都道府県で発生があった場合には、発生リスクが高まったと考え、関係者への注意喚起が必要です。

獣医師I

【参考文献】