健康診断の目的|早期発見のほか、個々の「正常」を知る重要性

動物取扱業者が取り扱う、1年以上継続して飼養又は保管を行うイヌ又はネコについては、年1回以上の獣医師による健康診断を受けさせるよう定められています。そこでこの記事では、健康診断の目的や、健康診断で異常が見つかる割合、健康診断におけるSDMAの必要性について解説していきます。 
参考:環境省HPより「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0305a.html 

健康診断の目的は? 

健康診断の目的は、健康における問題の特定や、健康状態確認と思われがちです。もちろん、これらのことも大切ですが、このほか、各個体の「正常」を把握・確認することにおいても有用です。健康診断のためにさまざまな検査を行い、多くの項目で「数値」を参考にしているでしょう。「参考正常値」「参考基準値」と比較してその動物がどういった状態なのか判断をしていきますが、中には正常値・基準値内に数値としては入っていないけれどもその動物にとってはそれが「正常」である場合があります。
「正常」を把握することにより、病気にかかった場合に、個々に合わせた評価を行うベースラインを確立することができるでしょう。 

健康診断で異常が見つかる割合 

明らかに健康な(なにも臨床兆候がない)20万頭以上のネコとイヌを対象に、血液化学検査・CBC・SDMA・尿検査・T4(7歳以上のネコのみが対象)を行った研究から、以下の各年齢層で臨床的に意義のある異常が見られたとの報告があります。 

・若年の成犬(1~3歳)・成猫(1~6歳):犬1頭/7頭、猫1頭/5頭の割合
・中年の成犬(4~8歳)・成猫(7~9歳):犬1頭/5頭、猫1頭/3頭の割合
・高齢の成犬(9歳以上)・成猫(10歳以上): 2頭/5頭、猫3頭/5頭の割合 

思いのほか、多い数値だと感じる方も多いでしょう。また、これらの結果を見ると、若年でも健康診断が必要であることがわかります。 

臨床徴候がないことが、必ずしも健康を意味するわけではありません。言葉を発することができない動物だからこそ、定期的な検査が重要です。  

SDMAは、すべての健康診断で取り入れるべきか? 

2024年時点では、「取り入れるべき」と考える獣医師が多いと考えられます。腎臓は、全身の健康にとって極めて重要な臓器にあたりますので、腎機能の評価はとても有益です。SDMAを用いれば、他のスクリーニング手段よりも、この腎機能の低下を早期に発見することができるでしょう。 

SDMAの数値は、腎機能が平均して40%(少ない場合は25%)低下した時点で上昇しますが、クレアチニンは、腎機能が75%低下するまで数値は上昇しません。 

このように、SDMAを健康診断に取り入れることで、腎機能障害をできるだけ早く発見することができ、早期に発見することができれば、腎機能障害を持つ個体に対して迅速に、最適な治療を提供できます。なかでも、高齢のペットやネコ、麻酔前の症例で腎機能障害は発生しやすく、SDMAは非常に有用だと考えられています。 

まとめ 

健康診断は若くて元気なうちは必要ないと考える飼い主さまもいらっしゃるようですが、その子の健康な状態の数値や情報を把握しておくことで、何か変化があった場合にすぐに気が付くことができます。「異常を探す」だけではなく、個々の「ベースラインを知る」ことが重要です。 

【参考文献】
Every pet can benefit from a patient-centric approach to preventive care.2023.IDEXX laboratories.

イヌ、ネコのSDMAが院内で測定可能!