膵炎を引き起こしやすい疾患と、併発を早期発見するポイント

イヌやネコの膵炎では、多臓器不全症候群(MODS)や播種性血管内凝固(DIC)に陥り、命に危険が及ぶケースも少なくありません。そのため、膵炎において合併症や併発疾患を把握することは、重症度の評価、治療や予後を推測する上で非常に重要です。

膵炎で引き起こしやすい疾患とその機序

イヌやネコの膵炎は、膵臓から分泌される消化酵素が膵臓内で活性化し、膵臓自体を自己消化してしまう病態です。この消化酵素が、膵臓だけでなく膵臓周辺組織に漏出すると、周囲の臓器の自己消化が起こり、腹膜炎や脂肪壊死、胆管閉塞などによる胆管炎につながる場合があります。 

さらに、重篤な場合には、自己消化により産生された化学物質や炎症性サイトカインなどが全身循環系に放出されます。すると、全身性炎症反応症候群(SIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome)を起こし、多臓器不全症候群(MODS)、腎不全、播種性血管内凝固(DIC)などにつながって命に危険が及ぶケースもあります。また、膵炎が慢性化すると、膵臓の機能が低下することにより、糖尿病や膵外分泌不全といった疾患の原因となることもあります。

併発疾患を早期発見するためのポイント

膵炎における併発疾患の有無は、症状や血液検査、画像診断検査の結果から総合的に判断します。通常、症状から膵炎が疑われる場合、膵炎に対して非常に高い感受性と特異性を有する、膵特異的リパーゼを測定することが一般的でしょう。

しかし、膵特異的リパーゼが上昇しているイヌにおいては、肝疾患や腸疾患など、膵臓と隣接した消化器疾患の併発が認められることが少ないとの報告があります。

そのため、膵特異的リパーゼの上昇が認められた場合には、白血球数やCRP、肝酵素、尿素窒素、クレアチニンなどの項目を追加することで、併発疾患について検討することが大切です。

また、X線検査では併発疾患の有無を確認するなど、超音波検査で膵臓だけでなく、腹腔内全体をスキャンし、胆管閉塞などの併発疾患の存在の有無を確認するようにしましょう。 

さらに、膵炎のイヌの6割近くで、血小板減少が認められ、DICに関与するとされているため、血小板数やFDPを測定し、DICの有無を調べることも重要です。ネコもイヌと併発疾患を確認する手順は同様ですが、ネコの場合、健康な個体でも膵特異的リパーゼ数値が高いことがあり、診断がさらに難しくなります。

まとめ 

膵炎における併発疾患の早期発見には、症状や血液検査、画像検査の結果から総合的に判断する必要があります。併発疾患の有無により、重症度の評価や治療判断、予後判定ができるため、積極的に確認することが重要です。

【参考文献】
坂井学,犬の膵炎に関するアップデート,journal of animal clinical medicine 23(3),94-95,2014