鳥の診察では、糞便検査が極めて重要な診断ツールとなります。鳥は、イヌやネコにくらべて体調不良のサインがわかりにくいことが多く、外見だけでは健康状態を判断するのが難しいです。そのため、排泄物の情報が重要な手がかりとなり、糞便検査から得られる情報は多岐にわたります。そこで本記事では、鳥の糞便検査の意義や方法について詳しく解説します。
糞便検査について
鳥の診察における糞便検査では、餌や異物、細菌、寄生虫やウイルスなどの情報が得られます。糞便検査だけでも、これらの情報を通じて鳥の健康状態を把握することが可能です。特に糞便検査はストレスに弱い鳥の診察において、非侵襲でできる有効な検査方法のひとつです。
糞便検査の意義
1. 早期発見
糞便検査は、様々な疾患の早期発見に役立ちます。
消化器疾患:
胃腸炎などの消化器疾患を発見できます。糞便の色や形状、未消化の餌の有無は、消化器の異常を示唆する重要な指標です。セキセイインコなどで消化器症状を呈するマクロラブダスも糞便検査で見つけることができます。
寄生虫感染:
コクシジウムなどの寄生虫は、鳥では頻繁に見かける寄生虫です。糞便検査で見つけることで、早期の治療に持ち込むことが可能です。
栄養失調や餌の問題:
糞便検査で栄養や餌についてわかることも多くあります。例えば果実食のサザナミインコで穀物を与えていた場合には未消化の便が出ることがあります。
2. 健康診断
鳥の健康診断では、糞便検査が必須です。
定期的な健康診断:
健康診断の一環としての糞便検査は、鳥の健康状態を把握するために役立ちます。健康な鳥では年に1〜2回実施するのが理想的です。定期的に行うことで、健康状態の変化を早期に捉えることが可能になります。
治療の効果判定:
治療後の経過を確認するためにも糞便検査が行われます。感染症や寄生虫症の治療が完了しているかを確認する目的で実施します。
3. 公衆衛生への貢献
ズーノーシスを防ぐための早期対応:
オウム病などの感染症は人間にも感染する可能性があり、糞便検査で発見することが可能です。糞便検査は公衆衛生の観点からも重要な役割を果たします。
糞便検査の実施方法
1. 肉眼検査
糞便の色、形状、臭い、未消化物の有無を確認します。外見的な異常を早期に発見できます。例えば黒色便では胃出血、緑色便は絶食便などです。
2. 直接塗抹法
糞便の一部をスライドガラス上に塗抹し、生理食塩水で溶かして顕微鏡で観察します。寄生虫や真菌、血球などを確認することができます。
3. 浮遊法(浮遊検査)
糞便をショ糖液などで溶かし、寄生虫の卵やシストが浮き上がるのを利用して顕微鏡で観察します。クリプトスポリジウムなどが確認できます。
4. 分子生物学的検査(PCR法)
オウム病の原因であるクラミジアや、PBFDのウイルスなどの特定の病原体の存在を検出します。
まとめ
糞便検査は、鳥の健康診断や病気の早期発見において欠かせない手法です。特に、鳥は体調不良のサインがわかりにくいため、定期的な糞便検査を行うことが健康管理において重要です。糞便検査の重要性を十分に認識し、健康管理の一環として積極的に活用しましょう。
獣医師N
■参考文献
Ritchie, BW, Harrison, GJ, & Harrison, LR (1994).鳥類医学:原理と応用. Wingers Publishing.
Schmidt, RE, Reavill, DR, & Phalen, DN (2003)。ペットおよび鳥類の病理学。Wiley-Blackwell.
高橋健. 「鳥類における糞便検査の臨床的意義」.日本鳥類臨床医学会誌、2021.