ネコの歯周病と慢性腎不全の関連性

ネコの慢性腎不全(CKD)は一般的な疾患であり、10歳以上のネコの30~40%が罹患していると報告されています。また日本のネコの死亡原因の1位(29.8%)が、CKDを含む泌尿器疾患であり、もし泌尿器疾患を除外した場合の平均寿命は、1.6歳のびるとのことです。これらのことから、CKDは死にいたる疾患と言えるでしょう。 

 ネコの歯周病(PD)もよくみられる疾患で、WASAVAのGlobal Dental Guidelinesでは、2歳までにネコの70%がなんらかの歯周病を患っていると記載されています。CKDと関連する因子は多数ありますが、今回は歯周病と慢性腎不全の関連性について調べてみました。 

ネコの歯周病とCKDの発症リスク 

プライマリケア動物病院で、ネコの歯周病とCKDの発症リスクとの関連性を調べた研究では、歯周病のあるネコは歯周病のないネコよりもCKDのリスクが高く、歯周病のステージ3および4のネコがもっともリスクが高いことがわかりました。 

 また研究終了前の1年以内に麻酔を受けたことは、CKDのリスクの大幅な増加と関連していました。歯周病の治療を目的とした歯科処置は、高齢ネコが麻酔を使用するもっとも一般的な理由のひとつです。 

CKDの危険因子は、ワクチン接種と歯科疾患 

ネコのCKDの危険因子を特定し早期発見に役立たせることを目的に「ネコの慢性腎不全発症の危険因子」の研究が、ロンドンの王立獣医大学で行われました。

臨床データとアンケートデータを評価し、その結果CKDの危険因子として、頻繁または毎年のワクチン接種と中等度および重度の歯科疾患が特定されました。歯周病が腎臓損傷を引き起こすメカニズムには、炎症性サイトカインの産生や内毒素などの宿主因子、および細菌に対する免疫応答が関与しています。 

またこの研究では、歯科疾患における抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬の使用や歯科処置に必要な麻酔など、歯科疾患の管理の影響より、歯科疾患自体に関連する要因が重要だと述べています。  

考察 

ネコの一般的な死因である慢性腎不全のリスクを知り、予防をすることで、寿命を延ばすことができるでしょう。ネコのCKDには多くの要因が関連しています。内的要因としては品種や年齢などがあり、外的要因としては今回調べた歯周病やワクチン接種やFIVなどがあります。

内的要因は変えることができませんが、外的要因は予防することが可能です。FIVに感染させないこと、過度のワクチン接種を避けること、歯周病対策を行うことです。ただ、歯周病も重度になれば、歯周病治療で行う抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬の使用、麻酔などもCKDの危険因子となるため、歯周病は早期段階での介入が必要です。 

ネコが若齢のうちから飼い主教育を行い、自宅での歯科ケアの習慣をつけていきましょう。定期的な獣医師の検査や早期のスケーリングなど歯周病の予防をすることがもっとも重要で、慢性腎不全発症のリスクを下げることだと示唆されています。 

獣医師H 

 

【参考文献】 

動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析
井上舞、杉浦勝明 日獣会誌 75 e128~e133(2022) 

Survival analysis to evaluate associations between periodontal disease and the risk of development of chronic azotemic kidney disease in cats evaluated at primary care veterinary hospitals
Rosalie T Trevejo, Sandra L Lefebvre, Mingyin Yang, Catherine Rhoads, Gary Goldstein, Elizabeth M Lund
J Am Vet Med Assoc.2018 Mar 15;252(6):710-720 

Finch NC, Syme HM, Elliot J. Risk factors for development of chronic kidney disease in cats. J Vet intern Med 2016;30:602-610 

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