ネコの慢性腎臓病(CDK)で、UPCが高くならないのはなぜ?

ネコの慢性腎不全(以下CDK)と、ヒトやイヌのCDKとでは、臨床症状や病理学的所見が大きく異なります。ネコのCDKでは、尿蛋白クレアチニン比 (UPC)が高くならないことも異なる点のひとつです。そこでこの記事では、ネコのCDKにおいてUPCが高くならない原因についてまとめました。

ネコのCDKとUPC

UPCは、尿蛋白濃度をクレアチニン濃度で割ったものです。尿の濃い薄いに関わらず、尿に漏れた蛋白質が有意なものかどうかの指標となります。

ネコのCDKでは、臨床症状として多飲多尿と脱水症状が主な症状となり、蛋白尿はほとんど認めらません。数値で見ると、CKDをもつ猫のうち、およそ70%でUPCが上昇しないと報告されています。

ネコの腎臓の解剖学的特徴

ヒトとイヌの腎小体は、隣接する腎小葉と血管で連絡しています。電気回路に例えると、並列配置になっているため、ひとつの腎小葉で小葉間動脈の血行障害が起きた場合、腎小葉間で血流が補充されます。すると、すべてのネフロンの機能が同一に低下し、腎機能は平均的になるのです。

一方、ネコの腎小体は、隣接する腎小葉と独立しています。直列配置の集合体となっているので、ひとつの腎小葉で小葉間動脈の血行障害が発生すると、腎小葉単独で血流を補填することとなります。すると、その腎小葉に付属するネフロンすべてが影響を受けるため、各小葉間に機能差が生じ、機能低下の進行度も早くなると考えられています。

ネコのCDKでUPCが高くならない原因

糸球体より蛋白質が濾出するということは、糸球体に血流があり、濾過圧が確保されていることを意味しています。ネコのCKDでUPCが高くならない理由は、小葉間動脈の血行障害による糸球体濾過圧の低下と考えられるでしょう。

ヒトやイヌでは、小葉間動脈の血行障害が起きた場合、その血行障害を葉全体で補填しようとします。一方、ネコでは各腎小葉が独立しているため、血行障害が発生すると、腎小葉単独で血流を補填することになります。

上記のように解剖学的特徴が異なることから、ネコの腎機能はヒトやイヌとくらべて血行障害に弱く、小葉間動脈の血行障害が生じると、糸球体濾過圧が低下し、UPCが高くならないと考えられています。

まとめ

ヒトとイヌは腎臓の解剖学的特徴が似ているので、イヌの場合は、ヒトの治療の恩恵を受けることが期待されています。一方、ネコの場合は、CKDのメカニズムが明確になっていません。CKDにおいて、獣医の治療方針は、猫のQOLに大きく関係する部分となりますので、最新の論文などをご注視ください。

<参考>
竹中 雅彦, 「CKDの治療薬-現在と未来」ベラプロストナトリウム, 日本獣医腎泌尿器学会誌, 2019, 11 巻, 1 号, p. 4-12,

獣医師H

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