都心部でマムシ咬傷のイヌを診察する機会は多くありません。しかし、飼い主と一緒に野山へ行ったイヌがマムシに噛まれるといったケースも否定できません。適切な治療に向け、準備しておくことが大切です。この記事では、マムシの特徴や噛まれやすい部位に加え、イヌがマムシに噛まれたときの症状や治療法について解説します。
マムシについて
マムシは大きな三角形の頭と、背面に黒く縁取られた斑紋が特徴的です。日本各地に生息しており、平地や山地の森林、藪のほか、山間部の水田や小川など、水場にも多く出現します。
マムシはハブより強力な毒を持っていますが、体が小さいため毒量は少なめです。蛇毒は、溶血毒および出血毒に分類され、毒の成分には、プロテアーゼ、ホスホリパーゼA2などがあげられます。
咬傷部位
マムシに噛まれやすい部位は、頭部・顔面が56%でもっとも多く、次いで前肢21%、後肢19%、不明4%と報告されています。上顎の2本の毒牙で噛まれるため、1cm間隔でできる2つの深い傷が咬傷部の特徴です。
マムシの毒牙は非常に強固ですが、毒牙が折れることもあります。すると、折れた牙が皮下や筋肉に埋没して見えなくなってしまいやすいため、噛まれた際は、局所のX線撮影を行ったほうが良いでしょう。
症状
マムシに噛まれたときは、通常約30分以内に痛みや腫脹が現れます。痛みや腫脹がなければ、無毒(10〜25%は毒液の注入がない)か毒量が少ないと考えられます。そのほか、元気消失、出血、食欲不振、皮膚の変色もよく見られる症状です。
症状のピークは1日目と2日目です。咬傷部位が四肢末端だと、腫脹によるコンパートメント症候群に陥る可能性もあるため、注意して経過を観察しておく必要があります。
治療
多くの動物病院では、抗生剤、ステロイド投与、咬傷部の洗浄・消毒といった処置が一般的です。また、症状に応じて制酸剤、制吐剤、抗ヒスタミン剤、止血剤、強肝剤の投与に加え、皮下輸液も行われます。重症の場合は、輸血も選択肢のひとつです。なお、マムシ抗毒素血清は副作用が多いため、GradeⅢ(肘関節または膝関節までの発赤・腫脹)以上の重篤例にのみ投与されることが一般的です。
また、セファランチンを使用することもあります。セファランチンは、台湾の住民がマムシ咬傷の民間療法として使用していた方法です。ツヅラフジ科の植物から抽出されたアルカロイドを用いる方法で、副作用が少ないため、医療現場でよく使用されています。
ヒトに対するセファランチンの用量は、1A=10mgで、1日10mgの投与が基本です。小児に対しては5mgにするなど、用量が調整されることもあります。イヌにセファランチンを投与するときは、人の用量を参考にして調整してください。
マムシに噛まれたヒトの死因は大半が急性腎不全です。マムシ毒の腎臓への直接障害のほか、局所腫脹による循環血液量の減少や、高ミオグロビン血症による二次的な障害が原因です。イヌがマムシに噛まれた場合でも、十分な補液をして腎臓を守る必要があります。
血液検査で溶血が認められる場合や、TP・Albの低下、肝酵素値、CPKの上昇、電解質異常などがある場合は重篤化していることが考えられ、治療に時間がかかるため、血液検査も必須です。
抗生剤の種類に関しては、広域スペクトルのもので良いでしょう。第一世代セファム系の抗生剤がルーチン使用されることもあります。ただし、WBCが速やかに回復しない場合は、多剤耐性菌が出現する例もあるため、早期の培養検査・感受性検査も必要です。
まとめ
ヒトの場合、マムシ咬傷での致死率は0.8%です。イヌはヒトよりも抵抗性が強いといわれていますが、個体差や咬傷の程度によっては重篤になり輸血が必要になる可能性もあります。イヌがマムシに噛まれた場合は、検査結果や症状の変化を注意深く観察し、適切な治療法を選択しましょう。
【参考文献】
1)マムシ咬症の犬48例と猫4例(1997年-2006年)
動物臨床医学17(2)45-51,2008
2)当院におけるマムシ咬傷18例の検討
函医誌第42巻第1号(2018)
3)北海道で経験した,腎不全とDICを呈したマムシ咬傷の1例
日臨外会誌69(10),2721-2724,2008
4)抗毒素血清投与を行わなかったマムシ咬傷38症例の検討
日本救急医学会雑誌Volume28,Issue2 February 2017
5)特集マムシについて知っておきたいこと
岩国医療センターだより 2020. 9月号
【関連記事】