ネコにおけるSAA(血清アミロイドA)は、急性炎症の指標として注目されており、最近の研究によりその有用性が確認されています。従来の炎症マーカーに加え、SAAを活用することでより早期に疾患の兆候を発見し、より適切な治療が可能になるでしょう。この記事では、ネコにおけるSAAの役割と、実際の診療でどのように活用できるかについて解説します。
SAAとは?
SAAは、炎症や組織障害に応答して血中濃度が急速に上昇するタンパク質です。炎症刺激に対して増加しやすく、疾患の活動性を反映するマーカーとして利用できます。またSAAは、特にネコの診断おいてCRPよりも感度の高い炎症指標として位置づけられています。
SAAを活用した臨床での応用
SAAは、ネコの多くの急性疾患において有用です。たとえば、敗血症や膀胱炎などの感染症ではSAAが急上昇するため、早期診断の手がかりとなります。また、術後や外傷後の炎症反応のモニタリングにも利用でき、炎症の収束や再燃の兆候を把握するのに役立ちます。
さらに、SAAは慢性疾患や免疫介在性疾患においても、疾患の活動性を評価する手段として有効です。慢性疾患の経過観察では、SAA値の上下が治療効果や再発リスクを示す参考となるでしょう。
そのほかの炎症マーカーと比較すると、ネコにおけるCRPはほとんど変動しないことが少なくありません。また、白血球数は炎症時に変動するものの、炎症以外の影響も受けやすく非特異的です。一方でSAAは、炎症に対してより鋭敏で特異性のある指標となります。白血球数 と併用することによって、より確度の高い炎症評価が可能になるでしょう。
SAA測定の方法と診断での利点
SAAは血液中に含まれるタンパク質であるため、一般的な血液検査で測定可能です。近年ではSAAの測定に対応した装置・試薬が開発され、動物医療の現場に普及しています。専用の免疫測定装置(Vcheck V200など )の使用により、院内でも迅速に結果を得ることができるようになりました。
SAAを用いた早期診断の最大の利点は、症状が非特異的で診断が難しいケースでも、炎症の有無を迅速に判断できる点です。たとえば、食欲不振や元気消失といった、曖昧な初期症状を示すネコにおけるSAA値の上昇は、炎症性疾患の存在を示唆し、さらなる検査や治療介入の判断材料となります。
最新の研究とSAAの発展
近年の研究では、SAAがネコのさまざまな疾患において有効なバイオマーカーであることが示されています。
Adamama-Moraitouら(2020)は、SAAが感染症、腫瘍性疾患、外傷後の炎症状態を明確に反映することを報告しました。そのためSAAは、炎症の重症度や治療経過の指標として高い信頼性を有しているとされています。
さらに、Freemanら(2022)の報告では、SAAの経時的モニタリングにより、炎症反応の推移を把握し、治療の効果判定や再発の予測に活用できる可能性があることを示唆しました。
たとえばFIPのような炎症性疾患では、治療によりSAA値が顕著に低下するため、臨床的改善との相関が確認されています。
実際の臨床現場でも、SAAは発熱や非特異的症状を示すネコの鑑別診断に使用され、特に慢性疾患に対して治療開始のタイミングや継続の判断材料として有用です。
こうした研究成果は、SAAが汎用的な炎症マーカーとして確立されつつあることを示しており、今後の臨床応用拡大の根拠となっています。
まとめ
SAAの活用は、炎症や疾患の早期発見につながるため、ネコの健康管理において重要なツールです。そのほかの炎症マーカーと併用すれば、より正確な診断と治療の判断が可能になり、臨床における迅速な対応や治療経過の評価に寄与するでしょう。SAAの臨床応用は、今後さらに広がっていくと期待されています。
獣医師H
【参考文献】
1)Adamama-Moraitou, K. K., et al. (2020). “Serum amyloid A as a biomarker for diagnosis of inflammation in cats.” Journal of Veterinary Internal Medicine, 34(4): 1210-1217.
2)Freeman, L. M., et al. (2022). “Use of serum amyloid A as a diagnostic tool in veterinary practice.” Journal of Small Animal Practice, 63(5): 220-230.
【関連製品】
\SAAを 5μL・5分で測定/

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