蛋白漏出性腸症は、消化管からタンパク質が漏れ出すことで、低蛋白血症を引き起こす病気です。炎症性腸疾患(IBD)、腸リンパ管拡張症、リンパ腫などが原因になることがあり、治療には脂肪を制限した食事管理が重要です。ここでは、蛋白漏出性腸症のイヌの食事管理について、特に中鎖脂肪酸に着目して紹介します。
蛋白漏出性腸症の治療に欠かせない食事管理
蛋白漏出性腸症の多くで腸リンパ管拡張症が認められています。リンパ管が拡張する原因はわかっていませんが、先天性のリンパ管奇形、後天的にはIBD やリンパ腫が原因になっている場合もあります。
タンパク質の喪失は、リンパ管閉塞や消化管粘膜の透過性の増大、消化管潰瘍など、小腸の状態が悪化した結果として起こります。蛋白漏出性腸症を起こしたら、タンパク質の不足が起こるため、栄養学的なサポートが不可欠です。
一般的に蛋白漏出性腸症の場合、低脂肪食または超低脂肪食が推奨されます。また、摂取する脂肪を制限することだけに着目するのではなく、摂取する脂肪酸の種類にも注目してみてください。脂肪酸のカテゴリーの中には、リンパ管に負担をかけずに消化吸収できる中鎖脂肪酸があり、症状改善の一助になると考えられています。
蛋白漏出性腸症になぜ中鎖脂肪酸が推奨されるのか
脂肪酸は、大きく分けて長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸 に分類されます。これらの脂肪酸から構成される中性脂肪がそれぞれLCT(Long Chain Triglyceride)やMCT(Middle Chain Triglyceride)と呼ばれています。LCTはリンパ管を経由して胸管に運ばれ、体循環に入ります。このLCTを吸収する際に、リンパ管に負担がかかると、リンパ管からリンパ液とともにタンパク質が漏出し、さらに低蛋白血症を引き起こしてしまうのです。
通常、脂肪の消化吸収には、膵液リパーゼや胆汁酸を必要とします。一方MCTの場合、これらがなくても吸収しやすく、リンパ管ではなく門脈を経由して肝臓に運ばれます。MCTであれば、リンパ管を経由しないため、消化管への負担が少なく、病状の回復に役立つ脂肪酸と言えるでしょう。
しかしMCTは、食事中におけるLCTの一部を代替できるものの、すべてをMCTに置き換えることはできません。食事からの摂取が必須である、必須脂肪酸のリノール酸、α-リノレン酸、EPA、DHAはLCTにしか含まれないからです。
そのため、MCTに置き換える部分と、LCTを摂取する部分のバランスをしっかり考えることが重要と考えられるでしょう。
まとめ
蛋白漏出性腸症の治療には、食事管理が欠かせません。そして、低脂肪食や超低脂肪食が推奨されることが多くなっています。LCTには、イヌにとって必要な必須脂肪酸が含まれているためゼロにすることはできません。しかし、消化管に負担を与える事実もあるため、食事指導の上ではジレンマになります。食事管理にあたり、低脂肪であることは重要ですが、MCTにも着目して食事指導することを心掛けてみてください。
獣医師I
【参考文献】
治療のための栄養学
https://www.purinainstitute.com/ja/centresquare/therapeutic-nutrition/canine-intestinal-lymphangiectasia
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