ネコの心筋症の食事療法について

無症候性肥大型心筋症(HCM)の有病率は、健康なネコで約15%といわれています。今までこの疾患にはエビデンスのある治療法がありませんでした。2025年1月にロイヤルカナン社から発売された「心臓サポート」は、HCMの進行を抑制し、心筋壁の厚さを改善する効果が期待されています。そこでこの記事では、「心臓サポート」に含まれている栄養素と、ネコの心疾患に対する食事療法の研究について解説します。

ロイヤルカナン「心臓サポート」の特徴

ロイヤルカナン「心臓サポート」には、ビタミンE、ビタミンC、タウリン、オメガ3系不飽和脂肪酸(DHA+EPA)が配合されています。

ビタミンEやビタミンCには抗酸化作用があり、活性酸素による血管や心筋の損傷を防ぎます。

また、タウリンは心筋の収縮力を維持し、心臓の細胞を安定させる働きがあり、ネコの必須アミノ酸のひとつです。

さらに、オメガ3系不飽和脂肪酸は抗炎症作用を持っており、心臓のリモンデリングの減少や血流改善が期待できます。

また、血液量が増加するのを防ぐために、ナトリウムの含有量が制限されており、心臓に負担をかけません。加えて、泌尿器の健康のため、結石の原因となるマグネシウムやリン等のミネラル量も調整されています。

肥大型心筋症と食事療法に関する研究

ヒトにおいて、インスリンおよびインスリン様成長因子(IGF-1)はさまざまなシグナル伝達経路に作用します。たとえば、心筋細胞におけるタンパク質合成の刺激もそのひとつで、心室肥大には、タンパク質の分解が阻害されることも関係していると考えられています。

猫の HCMは、ヒトのHCMと遺伝子型および表現型が類似しており、ヒトと同じく、インスリンやIGF-1、炎症などが関係しています。一部の猫では、急速に心肥大が進行し、重篤化が見られることもあります。

炭水化物も、心筋細胞の成長に関与する可能性があります。インスリンの分泌や作用に、炭水化物が影響を与えるためです。実際に低炭水化物食には、ヒトおよびラットの心臓リモンデリングとその機能を改善する効果があると証明されています。

また、オメガ3脂肪酸は、タンパク質合成の抑制、肥大心筋のリモデリング、抗炎症作用などを介して、心臓の構造と機能に影響を与える可能性がある栄養素です。

こうした栄養素による心臓への影響を検証するため、デンプンの含有量を制限し、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を加えた試験食による研究が行われました。

この研究の目的は、無症候性HCMのネコにおいて、前述の試験食が心エコー検査と心臓バイオマーカに与える影響を評価することです。

試験食を12カ月間与えたネコは、心室中隔厚(IVSd)と左室後壁厚(LVWd)が大幅に減少し、心筋トロポニンI(cTnl)とIGF-1も大幅に減少しました。

この結果は、食事療法が、インスリンやIGF-1、炎症といった要素を抑え、ネコにおける無症候性HCMの進行を遅延させる可能性があることを示しています。ただし、今回の研究では、左心房(LA)が肥大したネコでの効果は見られませんでした。

まとめ

オメガ3脂肪酸を加えたデンプン制限食による研究から、食事療法が心筋の肥大抑制および、進行遅延に寄与する可能性が示されました。つまり、HCMの進行には、インスリン、IGF-1、炎症が関与していると示唆されています。

こうした研究からも、ロイヤルカナン「心臓サポート」は、栄養学的配慮がされているネコ用ペットフードであり、無症候性HCMの食事管理における有効的な選択肢になると考えられるでしょう。

獣医師T

【参考文献】
1)Associations among echocardiography, cardiac biomarkers, insulin metabolism, morphology, and inflammation in cats with asymptomatic hypertrophic cardiomyopathy
J Vet Intern Med. 2020 Feb 11;34(2):591–599
2)Association of diet with left ventricular wall thickness, troponin I and IGF-1 in cats with subclinical hypertrophic cardiomyopathy J Vet Intern Med. 2020

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