ヒトでも動物でも、糖尿病になってしまうと長い闘病生活が必要になります(一部、ネコでは寛解の可能性はありますが)。
ヒトの場合は自分自身のことですが、厳しく生活習慣を律することはときに難しく、また動物の場合は飼い主さまの負担も大きいことから、治療を中断されるケースもあります。
ヒトの場合は、糖尿病の治療には医師(主治医以外の他科診療医師を含む)、看護師、栄養士、理学療法士など多岐に渡る職種の方がかかわって患者さまの家族も含めたチーム医療(図1)を実践し、治療の中断者を少しでも減らすための取り組みをされています。
今回はその一部をご紹介し、動物の糖尿病治療を実践されている獣医師の先生方にとって少しでも参考になる情報があれば幸いです。
図1.糖尿病治療の「チーム医療」例
糖尿病治療の要は血糖自己測定
糖尿病の治療を進めるうえで大事なことのひとつに、日々の血糖コントロールが挙げられます。
糖尿病でおそろしいのは急性・慢性合併症を招く可能性が高いことであり、それを防ぐためにも日々の血糖値を把握し、食事・運動などの状況や、体重・血圧などの情報とともに自身の体調に気をつけておく必要があります。
また、インスリン治療や服薬の影響であったり、何らかの原因で低血糖状態に陥る可能性がある場合にも、血糖値を把握することは非常に重要ですので、多くの患者さまが血糖自己測定を実施されています。
ただ、この血糖自己測定を継続することが患者さまにとって負担となり、治療がなかなか進まない場合があります。そうならないための取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。
血糖自己測定 継続のポイント1
1つめに、公益社団法人 日本糖尿病協会が発行されている「自己管理ノート」をはじめとするさまざまな血糖管理ツールが挙げられます。これは病院独自でさまざまなツールを準備されていたりします。
医療者が治療方針を決定する際には、血糖自己測定の記録が重要な情報源となります。そのため、血糖自己測定を確実に実施してもらうこと、その記録を報告してもらうことは大事なことです。
血糖値が上下した理由を把握するため、日々の出来事や体調などを併せて記入してもらえるようになっていたり、なぜ血糖自己測定をしなければならないのかなど糖尿病に関する基本的な説明がついていたり、各人の血糖測定パターンに合わせて色づけされていたり、血糖自己測定のやる気を喚起するような内容や、自身で気づきが得られるような内容に工夫されています。
図2.例:患者さま用 健康管理ノート(アークレイ発行)
血糖自己測定 継続のポイント2
2つめに、患者さまとの接し方は非常に重視されています。
治療を進めていくうえで、医療者と患者さまの信頼関係は非常に重要です。それを育むためのコミュニケーションは治療の継続にもつながります。
ヒトの場合は、糖尿病療養指導士という資格があり、患者さまに自己管理を指導する専門の医療スタッフがいて、スキルアップの機会も多く設けられています。
血糖自己測定ができない・やらない患者さまと接する際には、同じ目線に立って話に耳を傾け、寄り添う姿勢で根気強く治療を進められています。
低血糖と感じたときだけでも測定してもらうなど、まずはできるところから取り組み始めてもらい、次にそのときにはどのような出来事があったか情報共有をし、なぜそのような血糖状態になったのかを一緒に考え解説すると、患者さまの理解が得られやすく、行動変容につながることがあるそうです。
また、ポイント1で挙げたツールを用いて患者さまと話をする際に、書かれている情報だけではなく、患者さまの言動をよく見て、病気に対する思いや生活環境などの情報も引き出しながら、指導につながるキーを探していくことが大切です。
何年経っても行動変容がなかった患者さまでも、タイミングが合えば一気に病状改善につながることもあるようですので、医療者側もあきらめない気持ちが大切だと思います。
血糖自己測定 継続のポイント3
3つめとして、スタッフ間の情報共有を挙げます。
ヒトの糖尿病治療の場合はチーム医療を実践していると冒頭で記載しました。
そのため、一人の患者さまの情報を関わるすべての医療者が把握しておくことは重要です。
さまざまなツールを有効活用するためにも、医療者ひとりひとりが意識を高め、専門性を活かした支援を実施し、情報共有をして治療を進められています。
大きな病院の場合は、複数診療科をまたがって情報をどのようにやりとりするか体制が構築されていることもありますし、糖尿病治療に関わる方が集まる連絡会の開催などをされていることもあります。
スタッフ間で情報共有を徹底するためには、糖尿病治療に対する思いを合わせ、しっかりと信頼し合っていることが重要だと思います。
まとめ
動物の糖尿病治療の場合は、飼い主さまへの説明、指導が重要ですよね。治療を進められるかどうかは飼い主さまの意識次第になりますので、同じ目線にたって飼い主さまを巻き込んだチーム医療を実践していけたら良いのではないでしょうか。
動物が長く元気に暮らしていけるように、今回の情報が先生方の診療に少しでもお役に立てたら幸いです。
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