ヒトと同様にイヌの世界でも高齢化が進み、慢性病の一種である腎臓病を患うイヌも増えています。腎臓の数値が高ければ点滴をするというだけの治療ではなく、早期からそれぞれの病態に合った治療を選択する時代に入り、慢性腎臓病の予後はかなり改善してきています。
腎臓病の早期発見が必要な理由
腎臓は体の中の老廃物を毎日排泄するために常に働き続けています。また、老廃物の排泄だけでなく、赤血球を作る指令を出したり、血圧の調整を行ったりするなど、その機能は多岐に渡ります。しかし、いちど機能が低下してしまうと、再生することが難しいと言われている臓器でもあります。
腎臓が尿を作るための組織の単位を「ネフロン」と呼びますが、ネフロン数が低下すると、腎臓の機能を維持するために生き残ったネフロンの負担が強くなってしまうことがわかっています。
タンパク尿や高血圧も腎臓病の悪化要因と言われています。腎臓病を早期発見し、その病態を把握することで、ネフロンに負担をかけず腎臓病の進行を抑える対処法を取ることができます。
食事療法による生存期間の延長
腎臓病は完治する病気ではないものの、腎臓病のステージ分類をして病態を把握することで、イヌの状態にあった治療を行うことができるようになりました。
ステージ1など早期の腎臓病でも、高血圧やタンパク尿などの腎臓への負担要因が存在することもわかっており、それらの治療をすることで腎臓病の進行を防ぐこともできます。また、以前から言われている通り、腎臓病の治療に欠かせないのが食事療法です。
IRISのステージ2以上のイヌでの調査では、通常のアダルトフードを食べていたイヌの生存期間中央値が約半年であったのに対し、腎臓病食を食べたグループでは約1年半であったという報告があります。その報告では、2年間の調査のうち、腎臓病食を食べていたグループでは腎不全による死亡例は3分の1であり、腎臓病用の療法食を食べることで腎不全による死亡率を大幅に下げられる可能性を示唆しています。
食事療法の実際
イヌの腎臓病を発見できるのは、多くの場合通常の血液検査で検出できるステージ2以降です。ステージ2の治療の推奨はタンパク尿や高血圧など腎臓へ負担がかかる悪化因子を治療すること、さらにはリンやタンパクを制限した食事療法を行うことが推奨されています。
私の経験でも、タンパク尿が出ていない、もしくはタンパク尿を薬でコントロールできるイヌでは、ステージ2以降でも食事療法で長期間のコントロールが可能であるケースが多いです。
初診時にクレアチニンが3.0㎎/dL、タンパク尿がなかった症例では、腎臓病用療法食を食べさせることでクレアチニンの数値を維持し、2年以上その状態をキープできたこともあります。
その間は定期的な(2~3カ月に一度の)尿検査と血液検査で腎臓病の悪化の兆しがないかをチェックしつつ、体重の増減や脱水状態を身体検査でチェックします。
脱水は慢性腎臓病の悪化要因となりますので、注意が必要です。
また、タンパク尿が出ている場合には、ACE阻害剤など尿タンパクを減らす効果を期待できる薬によって、タンパク尿だけでなく腎数値も減少する症例もよく経験します。
一方で、内服薬や食事でもタンパク尿がコントロールできない症例では予後はあまりよくなく、日ごとに状態が悪化してしまうことも多いです。
まとめ
高齢のイヌの敵、腎臓病も早期に発見し適切な治療をすることで、QOLを保ちつつ長生きできることも多いです。大切なのは、腎臓病の状態を動物ごとに把握して、それに合った治療を行うことです。
定期的な検査をすることで、腎臓病の早期発見や必要な治療の選択をしていけるといいですね。
獣医師D
会員ページにて、院内迅速尿検査装置によるタンパク尿のスクリーニングの有用性について記載いただいた文献をアップしています。