食餌療法のみで良好な経過をたどるUPCが正常な慢性腎臓病のミニチュアダックスフント

獣医療は日々進歩しています。
昔からよく知られている慢性腎不全(最近では慢性腎臓病という呼び方が一般的です)も、その状態によってその治療法や予後が大きく異なることが分かってきています。

治療法や予後などに影響する腎臓病の状態を把握するのに大切なのが、尿検査です。
今回は、その中でも非常に重要な尿タンパククレアチニン比について、実際の症例を交えながらお話いたします。

■タンパク尿の意義と測定方法

尿中に存在するタンパク質が尿タンパクですが、膀胱炎などの下部尿路疾患がない場合には、尿中に存在するタンパク質は、腎臓からタンパクが漏れていることを意味します。腎臓からタンパク質が漏れ出る場合には、糸球体の障害や高血圧の存在が疑われるのと同時に、漏れ出たタンパク自体が腎臓病の悪化要因となることも知られています。

つまり、イヌやネコの腎臓病ではタンパク尿が出ているほど病状が良くなく、タンパク尿をコントロールすることが大切だということです。一方、尿タンパクが陰性の場合には、腎臓病の悪化要因が少なく、予後が良い可能性もあります。

尿タンパクの測定方法は、通常の尿スティックで行う半定量検査と、タンパク尿のより正確な検査である尿タンパククレアチニン比(UPC)測定があります。通常のスティック検査では、蛋白の量を数値化することが難しく、尿の濃さによってもその意義は変わってきてしまうため、有意なタンパク尿があるかどうかはUPCでチェックすることが必要になります。

UPCは外注検査で測ることが多いですが、アークレイの尿化学分析装置 thinka RT-4010ではUPCの半定量検査を院内で手軽に実施することが可能です。

■UPCが低い腎臓病は予後が良い?

当院の治療例をご紹介します。症例は16歳のミニチュアダックスフント避妊済メス、Aちゃんです。

Aちゃんが当院を受診したのは約半年前、嘔吐して食欲が落ちているとの主訴で来院しました。その3か月前に行われた他院での血液検査では、BUN52.1mg/dl、クレアチニン1.7mg/dlであり、軽度の高窒素血症を指摘されていました。

当院初診時の身体検査では、体重が4.12㎏(BCS1)と重度の削痩が存在しました。血液検査では、BUN69.3mg/dl クレアチニン4.6mg/dlと高窒素血症の悪化が確認されました。血液検査の数値としては、IRISのステージ分類のステージ3に当たります。また、脱水があるにもかかわらずPCV=36%と軽度の貧血もありますが、UPCは0.14と正常値の中に入っていました。Aちゃんには、脱水改善のための皮下点滴を2回、その後腎臓用フードによる食餌療法を行いました。

その後、元気食欲も回復しており、1週間後に血液検査を行うと、BUN35.4mg/dl、クレアチニン1.8mg/dlと、軽度の高窒素血症はあるものの血液検査の数値の改善が見られました。その後は療法食による食餌療法以外の治療は行っていないものの、BUNは30mg/dl以下、クレアチニンも1.2~1.5mg/dlの間で5カ月間維持しております。体重も順調に回復して現在は5.2㎏(BCS2.5)となり、PCVも40%を超えて貧血の改善も認められ、かなり良好な経過をたどっています。

■まとめ

同じ慢性腎臓病でも、進行の早いケースと遅いケースが存在することを実感されている先生も多いかと思います。慢性腎不全の予後因子はいくつか知られていますが、動物に侵襲なく手軽に検査できるのがUPCです。

イヌの腎臓病は、ネコの腎臓病よりも進行スピードが速いことが多いですが、今回の症例のようにUPCが低い場合には良好な予後が期待されることもあります。治療法の選択や予後判定のためにも、腎臓病の検査にUPCの測定もおすすめです。

獣医師M

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