イヌの変形性関節症と低血糖~後肢の跛行とふらつきの原因は?

高齢動物の場合、複数の病気が同時に起こるケースも決して少なくありません。そのため、1つの病気を診断しても、その病気が現在の症状の原因となっているかどうかを慎重に考えておかなければ、誤診や転院の原因となってしまうこともあります。
そんな例として、今回は糖尿病治療中に関節疾患の症状を示したイヌの例を紹介いたします。糖尿病治療中には、思い込みにも要注意です。

糖尿病治療中の高齢のイヌに後肢の跛行

今回紹介するのは、糖尿病治療中のトイプードル、13歳です。糖尿病によるインスリン治療を始めて1年以上が経過し、血糖値や体重も落ち着いてきたため、最近ではほとんど受診せず、自宅でインスリンを打つだけの生活をしていたそうです。

そのトイプードルが後肢の跛行を主訴にかかりつけの動物病院を受診しました。食欲はしっかりあり、むらがあるものの元気や活動性も問題なし。ただ、朝に後肢がもたついてかばっていることが多いことが気になるというのが受診理由です。受診時の血糖値は94 mg/dLと正常で、レントゲン検査で後肢の変形性関節症を指摘されてNSAIDsの投与をしていましたが、後肢の跛行やふらつきがひどくなり当院を受診しました。

セカンドオピニオンで低血糖が判明

当院の受診時には、確かに後肢の軽度の跛行とふらつきが確認されました。再度血液検査をしてみると、血糖値が48 mg/dLと低血糖気味になっており、低血糖からの後肢のふらつきを疑いました。その翌日血糖曲線を描いてみると、食餌とインスリン投与後4時間に血糖値が32mg/dLと最低値を示していることがわかりました。

血糖曲線を描くために入院している間は、低血糖のあった時間にやや後肢のふらつきや跛行がひどくなるといったこと以外には、震えや虚脱などの明らかな症状はありませんでした。その後、血糖値は徐々に回復し、インスリン投与後10時間で158mg/dLとなりました。

そこでインスリンの単位を25%減量し、しばらく経過を観察してもらうと、後肢の跛行やふらつきは徐々に改善されました。その後の検査でも低血糖や高血糖は起こさず、良好なコントロールができております。

症状や検査結果からの思い込みに注意

糖尿病や、変形性関節症を含む慢性関節炎は、高齢動物に非常に多い病気です。また、ヒトでは糖尿病の合併症として、関節の痛みが起こる神経病性関節症が報告されており、イヌやネコにも糖尿病性神経障害があると言われています。今回の症例は、症状もレントゲン所見も関節炎を示唆するものではあったものの、その症状には低血糖が強く関わり、低血糖による脱力が後肢のふらつきにつながったものと考えられます。

普段低血糖の症状を理解している獣医師でも、以下のような思い込みなどにより、低血糖を見逃してしまうことがあるようです。

・飼い主の稟告で関節疾患を強く疑った
・変形性関節症の典型的な症状とレントゲン所見が見られた
・1度の血液検査では低血糖を疑えなかった

糖尿病治療中の動物が何らかの症状を出したときには、常に低血糖・高血糖で出る症状には注意をしておく必要があるでしょう。

まとめ

インスリン治療によって糖尿病が落ち着いていても、徐々にインスリンの効き方が変化して、低血糖や高血糖を引き起こすことがあります。インスリン治療中の動物が体調不良を起こした場合には、その症状が低血糖や高血糖に典型的なものではなくても、低血糖や高血糖を鑑別診断リストに入れておくことは重要であると考えられます。

検査の時点で明らかな低血糖、高血糖がなくても、糖尿病治療中の動物の場合は血糖曲線や血糖値マーカー(フルクトサミン、糖化アルブミンなど)によって低血糖や高血糖がないのかをしっかりと調べておく必要があるでしょう。

獣医師A

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