慢性腎臓病の鑑別に尿検査の必要性を感じたトイプードルの一例

高齢のイヌやネコに多い慢性腎臓病。
血液検査で高窒素血症が見つかった場合、慢性腎臓病と決めつけて治療を行っていませんか?
特にBUNだけでなくクレアチニンが上昇している場合には、腎臓病と考えてしまいがちですが、血液検査だけで診断を決めてしまうと誤診をしてしまうケースも少なくありません。
今回は、高窒素血症と高カリウム血症から慢性腎臓病と診断されて転院してきたトイプードルについてご紹介いたします。

転院してきた高窒素血症と高カリウム血症のトイプードル

今回ご紹介する症例は、8歳の避妊済メスのトイプードルです。

この症例は、元気や食欲の低下のために他院を受診し、血液検査によって軽度の高窒素血症(BUN 38.9mg/dL、Cre 2.0mg/dL)、高カリウム血症(K 5.2mEq/L)、CRPの高値(4.7mg/dL)が見つかり、検査結果や経過から慢性腎臓病と診断されて点滴などを受けていました。
しかし、なかなか調子が良くならないため、セカンドオピニオンのために当院を受診しました。

当院での初診時には比較的元気そうではあったものの、お家ではぐったりと寝ている時間が長く、缶詰のフードを少し食べるだけで、体重も徐々に減少しているとのことでした。

当院での血液検査の結果、他院での検査と同様に軽度の高窒素血症と高カリウム血症を認めました。
同時に行った尿検査で、尿比重が1.040と比較的高かったことから、アジソン病の鑑別のためにACTH刺激試験を行いました。
すると、刺激試験前後のどちらのコルチゾールの値も0.2μg/dL未満の低値、という結果であり、アジソン病との診断に至りました。

フルドロコルチゾン(フロリネフ)とプレドニゾロンの内服により、元気・食欲の改善がみられ、徐々に調子は良くなりました。2週間の投薬後には、CRPも含め血液検査の数値はすべて正常値に戻りました(アジソン病でもCRPが上昇することがあり、病気のコントロールによって正常化する例がほとんどです)。
現在は、プレドニゾロン(0.5mg/kg 5日に1度)とフルドロコルチゾン(0.2mg/kg BID)で良好にコントロールされています。

慢性腎臓病の鑑別診断に尿検査

BUNやクレアチニンなど腎数値の高値は、「何らかの原因で腎臓から排泄すべき老廃物が体内に蓄積している」という意味ですが、「高窒素血症=腎臓病」というわけではありません。

特にアジソン病は、元気や食欲の低下、体重減少などの症状や、BUNやカリウムの増加などの臨床検査所見が慢性腎臓病との共通点が多い病気です。
さらに、アジソン病では血清クレアチニンの増加が半数以上、多飲多尿も10~20%にみられると言われており、慢性腎臓病と誤診してしまうことも多いようです。

そんな時に簡便にできる鑑別診断のための検査が、尿検査です。
アジソン病では、低血圧に伴うGFRの低下から、腎前性腎不全による高窒素血症が起こります。
慢性腎臓病では尿の濃縮能が落ちるため、尿比重は低下しますが、腎臓の濃縮能が正常なアジソン病では基本的に尿比重は高くなります。

ただし、一定の割合で多尿になるアジソン病があることや、検査前に点滴を受けていると尿比重が低下することから、尿比重が低いからという理由でアジソン病を否定することはできませんが、尿比重が高ければ慢性腎臓病との診断を考え直す必要があります。

まとめ

症状や検査結果から、一つの病気が頭に浮かんでしまうと、他の病気を見逃してしまうことは意外と多いです。特にアジソン病は非特異的な症状が多く、他の病気と混同されやすい病気の一つです。

血液検査は全身の状態をみることのできる、獣医療に欠かすことのできない検査ですが、特に腎臓病の診断の際には血液検査だけに頼るのは危険です。
血液検査だけでは病気を誤診したり、治療のための情報が不十分になったりすることがあります。
血液検査で高窒素血症がある場合には、より的確な診断や治療のためにも尿検査をする癖をつけておくといいかもしれませんね。

獣医師K

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