ネコはイヌに比べると糖尿病の発見が遅れる傾向にあります。中には病気がかなり進行して、重度の合併症になって初めて異常に気づくこともあります。ネコの糖尿病の合併症のうち、糖尿病性ケトアシドーシスは急性代謝障害であり、治療介入の遅れや不適切な治療により状況は悪化し、離脱が遅れると死に至ります。
糖尿病性ケトアシドーシスの病態
糖尿病性ケトアシドーシスになると、体内で2つの変化が起こります。1つはインスリンが不足または効果が阻害されて高血糖になり、浸透圧利尿の状態になることでの脱水です。もう1つは、インスリンが不足または効果が阻害されてブドウ糖の細胞内への取り込みが減少し、エネルギー不足になることで中性脂肪をエネルギーとして利用するようになり、その結果ケトン体が産生されることで起こる代謝性ケトアシドーシスです。
単純な糖尿病から糖尿病性ケトアシドーシスになることは少なく、ネコでは口内炎、歯肉炎、膵炎、胆管炎、腸炎、膀胱炎といった炎症性疾患があるとなりやすいとされています。
糖尿病性ケトアシドーシスの診断
糖尿病であること、尿ケトン体が陽性であること、代謝性アシドーシスであること。
この3つを満たすことで、糖尿病性ケトアシドーシスと診断されます。代謝性アシドーシスについては血液ガスが測定できない場合、低ナトリウム血症、低カリウム血症と沈うつや脱水といった全身症状から判断します。逆に言うと、糖尿病で尿ケトン体が陽性であっても、代謝性アシドーシスでなければ糖尿病性ケトアシドーシスではないため注意が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスの治療
治療で最優先すべきポイントは、脱水と電解質異常を改善させることです。そのために輸液が不可欠になります。インスリン投与の前に十分に水和させ、尿量を確保し、低カリウム血症や低リン血症を補正します。インスリンはブドウ糖を細胞内に取り込むときにカリウムとリンも取り込むため、低カリウム血症・低リン血症の状態でインスリンを投与すると、さらに状態が悪化します。
低カリウム血症が重度になると筋肉や心臓の機能低下を招き、低リン血症が重度になると溶血性貧血を招きます。また、急激な数値の補正はそれ自体が命に関わるため、48〜72時間かけてゆっくり補正する必要があります。
まとめ
糖尿病性アシドーシスの症例はかなり悪い状態で来院してくることが多いため、発見自体は難しくありません。ただし、治療は非常に難しい病態です。また、一度離脱できても再度ケトアシドーシスになることも多く、状態が安定するまで気を抜けません。
逆に、糖尿病のネコの状態が落ち着いているにも関わらず、尿検査でケトン体陽性になったことで糖尿病性ケトアシドーシスと誤診してしまい不要な治療に入ってしまうことが無いように、代謝性アシドーシスの有無について注意を払う必要があります。
獣医師T
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