糖尿病は病気の中でも特徴的な症状があり診断しやすい病気です。しかし、健康診断などで血液検査や尿検査を行った際に、高血糖や尿糖が認められるとすぐに糖尿病と診断してしまう獣医師もいます。糖尿病の病態は多様であり、また基礎疾患によっても治療法は異なるため、インスリンの適応は限られます。ましてや糖尿病でないのにも関わらず、インスリン治療を行うと低血糖の状態になってしまい命に関わります。一回の高血糖や尿糖だけで糖尿病と診断しインスリンの適応と判断することはとても危険です。
血糖値が異常値だった時に考えること
血液検査を行って高血糖だった際は、糖尿病の他に基礎疾患として副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、未避妊雌の黄体期、感染症、薬物、ストレス性高血糖、肥満、膵炎、末端肥大症などを考えます。副腎皮質機能亢進症や膵炎などがすでにあり、血糖値が軽度に上昇している際は現在糖尿病でなくても将来的に可能性があるので飼い主さまにインフォームしましょう。
ストレス性のことを考え、来院時にすぐに採血するのではなく少し時間をおいてからの採血の方が好ましいでしょう。一方で、低血糖だった場合は、測定ミスの他に若齢性の低血糖、インスリンの過剰投与、インスリノーマ、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、肝不全、敗血症、悪性腫瘍、飢餓などを考えなければなりません。
血糖値以外に測定するべき検査
尿検査で尿糖が出るかどうかを確認することはもちろんですが、糖尿病ではその他の生化学検査値にも異常が出ることが多く、ALP、ALT、総コレステロール、中性脂肪などの高値、黄疸および腎前性窒素血症などが認められることがあります。また、前述した疾患の鑑別にはそれぞれACTH試験や膣スメア検査、膵特異的リパーゼ、超音波検査、画像検査などを行います。
持続的な高血糖か否かを知るのに有用な検査
グルコース濃度だけでなく糖化アルブミンやフルクトサミンを測定することでストレス性の高血糖の除外ができます。糖化アルブミン、フルクトサミンは過去1~2週間の血糖変動を捉えることができるので血糖値の異常が一時的か持続的かを判断することができます。
まとめ
臨床症状から診断しやすい糖尿病ですが、安易に診断し誤診してしまうと取り返しのつかないことになります。一回の尿糖・血糖値の上昇で判断するのではなく、基礎疾患の有無や持続的な高血糖・尿糖、臨床症状を総合的に組み合わせ診断することが大切です。また、若齢のころからの健康診断を通してその動物の標準の数値を知っておき、数値に変化があるのかどうかを読み取ることも重要となります。現在糖尿病でなかったとしても、基礎疾患によっては将来的に糖尿病になる可能性が示唆されるため、きちんと飼い主さまにインフォームし基礎疾患の治療、必要であれば食事療法を行うのも効果的です。
獣医師M
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