ネコの糖尿病はほとんどの場合がいわゆるⅡ型糖尿病とされています。しかし、数は少ないですがそれ以外の原因から糖尿病を発症するケースもあるので注意が必要です。今回は、先端巨大症から糖尿病を併発したと思われるネコの症例を紹介します。
先端巨大症とは
先端巨大症とは、下顎骨が前方に突出したり、四肢末端が腫大したりするといった見た目の変化を特徴とする疾患です。ヒトと同じように下垂体からの成長ホルモンを産生する腫瘍が原因になることが多いと考えられています。見た目の変化だけであれば大きな問題にはなりませんが、成長ホルモンの影響により高血圧、心不全、腎不全、糖尿病といった疾患や、腫瘍が増大することにより脳神経圧迫による神経症状の悪化などが起こり、積極的な治療を行わない場合は1~2年以内に死亡してしまいます。
今回の症例
症例は11歳の避妊済み雑種ネコです。1ヵ月ほど前から多飲多尿が見られるようになり、痩せてきた気がするという飼い主さまの気づきから来院されました。
血液検査での血糖値上昇と尿検査にて尿糖陽性が認められたため、数日後に同じ検査を実施しましたが、やはり同じ所見でしたので、糖尿病と診断してインスリン治療を開始することになりました。元気や食欲などに問題は見られず性格的に入院も難しかったため、持続血糖測定器を装着して最初から自宅にて治療することにしました。
インスリン投与量は2IU/bidで開始し、その後4IUまで増量したものの血糖値のコントロールが不良でした。慢性膵炎の存在を否定するためステロイドの投与もしましたが変化がみられず、段階的にインスリン投与量をさらに増やしていきました。しかし、3ヵ月近く経っても血糖値のコントロールは奏功しませんでした。
そのため、insulin-like growth factor 1(IGF-1)を測定したところ非常に高い数値だったため、先端巨大症と診断しました。 飼い主さまには確定診断のためにはMRI検査が必要なこと、根治のためには外科手術や放射線治療が必要になることを説明しましたが、そこまでは希望されませんでした。
したがってその後は、インスリン投与のみ続けることになりました。現在治療開始から6ヵ月経ち、依然として血糖値は高いままですが、糖尿病性ケトアシドーシスになることもなく、糖尿病以外の先端肥大症の併発症は見られません。
まとめ
糖尿病の症例は数多く経験していますが、insulin-like growth factor 1(以後 IGF-1) を測定して先端巨大症を診断した症例は初めてでした。病気のイメージとして外見の変化が最も大きいと思い込んでいましたが、見た目はまったく変化がなかったため、当初は鑑別診断に入れていませんでした。糖尿病で血糖値コントロールがうまくいかない場合には必ずこの疾患の鑑別を入れる必要があると考えています。
獣医師S