ネコの糖尿病(内分泌疾患)を診療する時のポイント

従来、飼い猫は自宅と外を行き来する飼育環境でしたが、現代の住宅事情などを背景に完全室内飼いのネコが大半を占めるようになりました。その影響で、自宅でいつでもご飯を食べることができる環境に加え、活動的に過ごす時間が短くなり、肥満になってしまうネコが増えてきています。1994年のデータにはなりますが、過体重のネコが25%、肥満のネコが5%と報告されていましたが1、現在では肥満のネコの割合が高くなってきているのではないでしょうか。今回は、この「肥満」と大きな関連がある内分泌疾患であるネコの糖尿病について、その要因と症状および検査についてお伝えしていきます。

ネコの糖尿病の要因

ネコの糖尿病の発症の背景には、環境要因と遺伝的要因があります。環境要因として最も主要なものは肥満です。肥満のネコは適正体重のネコと比較して、糖尿病を発症する可能性が3.9倍高いことが示されています2。また、体重の増加に伴ってインスリン感受性が低下していることが報告されていることからも、肥満が糖尿病リスクを増加してしまうことを裏付けています3。しかし、インスリン感受性は個体差が大きいとされており、全てのネコが肥満によって糖尿病になるわけではないようです。さらに、肥満によるインスリン抵抗性は不可逆性ではなく、ダイエットにより改善されることも報告されています。

遺伝的要因としてはバーミーズで糖尿病の発症率が高いことが報告されていますが4)、日本では飼育されている方が少なく、そこまで注意は必要ないのかもしれません。

ネコの糖尿病での症状と検査

主な症状は、初期には多飲多尿、多食、体重減少などです。この段階で診断できず進行してしまった場合は、ケトアシドーシスを引き起こし、食欲および活動性の低下、脱水、嘔吐などが見られるようになります。検査は高血糖の確認を含む血液検査、尿検査にて尿糖やケトン尿の有無の確認をします。その他にも長期血糖コントロール測定のためにフルクトサミンの測定を行います。

まとめ

今回は、ネコの内分泌疾患の中でも比較的遭遇する機会の多い糖尿病を診療していく上でのポイントについてお伝えしました。糖尿病に限らずではありますが、症例によって症状の有無や程度にはばらつきがあるため、同じ糖尿病でもその症例に合った検査や治療を考えなければなりません。糖尿病に関連して、その他のネコの内分泌疾患を診療していく上でも、疫学的な背景や特徴的な症状を知っておくことがその病気を疑う上で重要なポイントとなります。

獣医師F

参考文献

  1. Ettinger S,Feldman E C.VETERINARY INTERNAL MEDICINE 8ed.ELSEVIER 2017
  2. Scarlett JM,Donoghue S,(1994)Overweight cats:prevalence and risk factors.International Journal os Obesity and Ralated Metabolic Disorders 18, S22eS28.
  3. Hoenig M,Thomaseth K,Insuline sensitivity,fat distribution ,and,adhipocytokine response to different diets in lean and obese cats before and aftere weight loss,American
  4. Biourge V,Nelson RW et al.Effect of weght gain and subsequent weight loss on glucose tolerance and insulin response in healthy cats.Journal of Vetrinary Internal Medicine 11 86-91.

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