2021年2月15日、American College of Veterinary Internal Medicine(ACVIM)よりネコの膵炎に関するコンセンサスステートメントが公開されました。これは、この分野の専門家8人からなる委員会が、文献によるエビデンスベースでコンセンサスが得られたものを基に、ネコの膵炎の診断、治療などに関するこれまでの課題に対して具体的な臨床的推奨事項を提唱するものです。今回は、約20ページに及ぶコンセンサスステートメント全文の中から、特に注目すべきポイントをいくつかお伝えします。
※大変興味深い内容なので、詳細を知りたい先生方はぜひ原文をご一読ください。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16053
膵炎の臨床徴候と発生率
これまでの報告、及び現場の先生方の実感としてもあるように、急性膵炎および慢性膵炎の両方に関連する臨床兆候は非特異的です。興味深いことに、ネコの腹痛が膵炎の特徴的な所見であると言われていますが、実際にこの身体所見が見られるのは多く見積もっても30%程度とされています。この件に関して、委員会はネコの腹痛が十分に認識されていないためと結論づけています。
それ以外に報告されているネコの膵炎の臨床徴候と身体所見の発生率は、以下の通りです。
臨床徴候 | 発生率(%) | 身体所見 | 発生率(%) |
無気力 | 50-100 | 脱水 | 37-92 |
食欲不振 | 62-97 | 低体温 | 39-68 |
嘔吐 | 35-52 | 黄疸 | 6-37 |
減量 | 30-47 | 明らかな腹痛 | 10-30 |
下痢 | 11-38 | 発熱 | 7-26 |
呼吸困難 | 6-20 | 腹部腫瘤 | 4-23 |
急性膵炎の栄養管理
ネコの栄養管理に関する報告は限られていますが、ヒトやその他の動物における臨床研究の結果では、早期の栄養サポートを強く推奨されており、特にヒトでは治療の中心的役割を果たしています。重度の急性膵炎患者では、早期の経腸栄養は膵臓壊死を最小限に抑えると共に、多臓器不全の発生率を低下させ、転帰を改善する積極的な治療介入だとされているのです。また、ヒトでは経鼻空腸栄養と経鼻胃栄養で、経路の違いによる予後に関して無作為化試験が行われ、有意差が認められなかったと報告されています。ネコでは局所麻酔で行うことができ、負担も少ないことから経鼻食道カテーテルの設置が臨床の現場でも一般化されていますが、経腸栄養のような設置に全身麻酔を必要とする処置をせずとも、結果に差がないという報告は、ヒトでの研究ではありますが朗報と言えるかもしれません。
まとめ
カリフォルニア大学で剖検を受けた115匹のネコの報告では、66.1%が組織学的評価における膵炎と診断されています。しかしながら、実際には臨床の現場感としては、膵炎と診断できるネコはそれほど多くないかもしれません。では、この報告との乖離は一体どこにあるのでしょうか。症状を隠すプロフェッショナルであるネコゆえに起こることなのか、ネコの膵炎に対する診断基準が甘く、多く見積もってしまっているのかといった疑問が生じてくるでしょう。コンセンサスステートメントは一部の専門家による合意声明であり、世界共通の診療ガイドラインとは異なる点に注意が必要です。ネコの膵炎に対する課題はまだまだ多く、今後もデータの集積を継続する必要があるのかもしれません。
獣医師Y