イヌとネコの糖尿病治療の最新動向

イヌやネコの糖尿病治療は、これまで療法食とインスリンによる血糖コントロールが中心でした。
しかし近年、治療薬やモニタリング技術の進歩により、より柔軟で個々の動物に合わせた管理が可能になってきています。
特にネコでは注射に代わる経口薬が登場するなど、治療の選択肢が広がっています。
そこで今回は、イヌとネコにおける糖尿病治療の最新動向を解説します。

イヌでは引き続きインスリン療法が主流

イヌの糖尿病の多くは膵臓からのインスリン分泌が欠乏するⅠ型糖尿病に分類されます。
そのため、治療の中心はインスリンの定期的な投与です。併せて、高繊維・低脂肪食を中心とした食事療法、適切な運動、体重管理が重要です。

食事は、体重に応じて量と時間を一定に保ち、間食はできるだけ避けます。
安定した血糖コントロールのためには、飼い主さまの理解と協力が欠かせません。
注射の方法や食事時間の管理を正確に行うことが、病状の安定につながります。
動物病院では、定期的な血糖モニタリングと体重測定を行い、インスリンの量を調整していくことが求められます。

ネコでは経口薬(SGLT2阻害薬)が新たな選択肢に

ネコの糖尿病は、インスリンの作用不足や感受性低下を特徴とするⅡ型糖尿病が多く、インスリン抵抗性を伴う例も少なくありません。
従来はイヌと同様にインスリン注射が主流でしたが、注射の負担や投与の難しさから治療継続が難しいケースも見られました。
近年登場したSGLT2阻害薬では、1日1回の経口投与で血糖コントロールが可能になっています。
低血糖のリスクが少なく、飼い主さまの負担を軽減できる点が大きなメリットです。

SGLT2阻害薬とは

SGLT2は、腎臓の近位尿細管でブドウ糖を再吸収する経路です。SGLT2阻害薬はこの働きを阻害し、余分なブドウ糖を尿中に排泄させることで血糖値を下げます。
ブドウ糖の約90%がSGLT2経路で再吸収されるため、これを阻害しても、残りのSGLT1経路が働くことで、低血糖を起こしにくいとされています。

メリットと注意点

SGLT2阻害薬は経口投薬が可能であること、低血糖が起こりにくいことがメリットです。
一方で、尿中にブドウ糖が排泄されるため、尿路感染症や糖尿病性ケトアシドーシスには注意が必要です。
投与開始から2週間は、尿検査や血液検査での経過観察を行うことが望まれます。

血糖値のモニタリング技術も進化

近年は、血糖値を連続的に測定できるフラッシュグルコースモニタリングシステムの導入が可能です。
皮膚にセンサーを装着し、ストレスの少ない状態で血糖変動を可視化できるため、採血によるストレスや、白衣高血圧を防ぐことができます。
特にネコでは、採血ストレスを軽減できる点で有用です。家庭でも血糖の推移を確認できるようになり、よりきめ細やかな糖尿病管理が可能になりました。

注意点としては、ヒト用のシステムであり、測定しているのは皮下組織(間質液)の血糖値のため参考値であることを理解した上で使用しましょう。
定期的に動物用血糖測定器や生化学分析装置で正確な血糖値を確認するとよいでしょう。

また、皮膚に装着した部分の炎症などにも気を付けましょう。

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まとめ

イヌ、ネコの糖尿病治療は、これまでのインスリン療法を基盤としつつ、経口薬やモニタリング技術の進歩により大きく変化しています。
治療の選択肢が増える一方で、動物ごとに最適な方法を見極めるには、獣医師と飼い主さまのコミュニケーションが欠かせません。
進化する治療法を取り入れ、より負担の少ない糖尿病管理を実現していくことが、今後の臨床現場に求められます。

 

【参考文献】
1.Vet Intern Med. 2024 Jun 17;38(4):2099–2119. doi: 10.1111/jvim.17124
Efficacy and safety of once daily oral administration of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor velagliflozin compared with twice daily insulin injection in diabetic cats

2.JAVMA | OCTOBER 2024 | VOL 262 | NO. 10
Velagliflozin, a once-daily, liquid, oral SGLT2 inhibitor, is effective as a stand-alone therapy for feline diabetes mellitus: the SENSATION study

3.ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン(株)HP

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