糖尿病治療の評価方法

糖尿病治療のゴールはどこにあるでしょうか?ネコではイヌと異なりインスリン治療から離脱できるケースがありますが、イヌでは基本的には一生涯インスリン治療が必要になります。ヒトの糖尿病治療では、SMBG(血糖自己測定)の値をもとに日内変動を予測して投与量の変更を考慮しますが、これは自覚症状などご本人の経験値をもとにした方法です。動物の場合、飼い主さまがイヌやネコに自宅で投薬する際、血糖測定をご自身で行うとしても数値にこだわりすぎず治療をしていく必要があります。

ネコではインスリン治療から離脱できる可能性がある

ネコの糖尿病はインスリン非依存性である2型糖尿病、イヌはインスリン依存性の1型糖尿病です。そのため、インスリン分泌能がすでに無くなっているイヌとは異なり、ネコの糖尿病ではインスリン分泌能が残っている状態、あるいは組織がインスリンをうまく利用できない状態になっています。

インスリンを放出しているのにも関わらずインスリン抵抗性を示し、利用できない原因の1つに肥満が挙げられます。肥満が引き金となって糖尿病になることがあるため、食事管理は糖尿病の予防になります。また、すでに糖尿病になってしまった際も初期の治療にはインスリンが必要ですが、治療と同時に低炭水化物食・高タンパク食の食事管理をすることでインスリン治療から離脱できる症例が数多く存在します。

ヒトとイヌ・ネコでは糖尿病治療の目標が異なる

ヒトでは高血糖が続くと合併症として心臓発作や脳卒中、腎不全、失明、断脚を伴うような感染症などを発症する可能性があります。そのため人間の糖尿病治療では血糖値をできるだけ正常に近づけることや、血糖変動を抑えることがとても重要です。しかし、このような症状が出てくるのは10年以上糖尿病が続いていた人に多いようです。イヌやネコでは糖尿病治療を10年以上行うケースも中にはありますが、ヒトほどの厳密な管理はあまり必要ありません。

イヌ・ネコにおける糖尿病治療のゴールは何か?

ヒトほどの厳密な管理は必要ありませんが、一番重要なのは、ご家族がイヌ・ネコの調子が良いと思える状態にすることです。食欲や飲水量が安定し、体重に変動がみられない状態が理想的でしょう。そのため、飼い主さんには日々の様子を記録してもらうと糖尿病管理に役立ちます。イヌの場合は高血糖の状態が続くと白内障を併発しやすいため、目が白くなっているようだとうまくコントロールできていない可能性が高くなります。

血糖値の測定は大切ですが、病院で一回だけ測定する方法ではあまり意味がないので、お預かりしてきちんと血糖値曲線を作成するか、血糖測定器を購入いただくか貸し出すなどして、自宅で血糖値曲線を作ってもらうようにしましょう。病院ではフルクトサミンや糖化アルブミンなどの検査も役立ちます。

まとめ 

糖尿病のモニターを行う際に、血液検査や尿検査の結果に一喜一憂してしまいそうですが、実際に一番重要なのは飼い主さまからみてイヌ・ネコの調子が良いかどうかです。日々の体調や合併症の併発あるいは悪化が無いかどうか、問診と合わせて検査結果を考慮していきましょう。また、ネコでは肥満であることがインスリン抵抗性につながるため適切な食事管理をすることでインスリン治療から離脱できることがあります。それを目標にすることで飼い主さまの糖尿病治療のモチベーションも上がることが期待できます。

獣医師S

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