ネコにおける、腎臓病用療法食とインスリン投与量の関係性

糖尿病のネコには、炭水化物を制限した高蛋白・低炭水化物食が推奨されていますが、基礎疾患や併発疾患を有する場合は、疾患に対する食事療法を優先すべきとされています。
ただ、ネコに多い疾患、腎臓病の療法食では、低蛋白食で脂質と炭水化物の割合が増えると、理論上血糖値が増加しやすいと考えられ、問題点があることも否めません。
そこで、今回は『腎臓病用療法食に変更したことでインスリン投与量が減量できたネコの2症例』という論文をご紹介します。

1症例目の経過

1症例目は、半年前に他院で糖尿病の診断・治療を受けたのち当院を受診した、スコティッシュフォールド(2歳、去勢雄、体重3.32kg)です。他院では糖尿病用療法食(ドライフード)を処方され、プロジンク4単位を注射するも血糖値は300mg/dL を切らずに日中推移していました。

その後、しばらくして食欲廃絶、元気消失により当院を来院。血液検査にてBUNとCreの上昇、重度の脱水が認められたため、点滴治療を開始し、十分な水和を行いました。

入院5日目から食欲が回復し、その際に食事を腎臓病用療法食(ウエットフード)に切り替え、インスリン製剤はレベミルを3.5単位から開始し、4.5単位まで増量しましたが、退院時には1単位で血糖値がコントロールできるようになりました。

退院後は皮下補液を実施することで、レベミル1.5~2単位を維持。腎不全発症前のインスリン投与量の半量で血糖値がコントロールできるようになっています。ただ、退院後に腎臟病用療法食(ウェットフード)から同製品のドライフードに切り替えようとしましたが、多飲多尿傾向になり現在はウェットフードで維持しています。

2症例目の経過

2症例目は、13歳時に糖尿病を発症した日本ネコ(13歳、去勢雄、体重7.38kg)です。糖尿病発症の2ヵ月前にCreの上昇が認められたため、腎臓病用療法食(ドライフード)を処方していました。

当初、レベミル1単位で血糖値がコントロールできていましたが、第9病日に多尿傾向となり、プロジンクに変更。そして、プロジンク5単位で血糖値がコントロールできるようになり、多飲多尿も改善されました。

しかし、第270病日に元気消失、食欲廃絶、重度の脱水が認められ、血液検査にてBUN124.6mg/dL、Cre8.6mg/dLと高値を示したため、急性腎不全と診断し、点滴療法を開始。その後、腎臓の数値は改善し、元気・食欲も回復、食後の血糖値の上昇が認められなくなったため、インスリンの投与を中止。退院後もインスリン製剤の投与の必要はなくなり、現在は腎臟病用療法食と皮下補液のみで状態が安定しています。

これら2症例の経過から考えられること

腎臟病用療法食は低蛋白食で脂質と炭水化物の割合を増やしており、理論上は血糖値が増加しやすい組成となっています。しかし、今回、慢性腎臟病を併発した糖尿病のネコに腎臟病用療法食を与え、インスリン製剤の投与量を減量することができました。

ただ、いずれの症例においても療法食を変更しただけでなく、静脈や皮下からの点滴療法にて十分な水和を行ったことによって、インスリン抵抗性が下がったことも、血糖値がコントロールできるようになった一因と推測されています。

また、療法食を変更し組成が変わると、血糖値を含めた血液検査の結果がかなり変化することがわかっています。そのため、腎疾患などの基礎疾患や併発疾患を見落としたまま不適切な食事を給与され続けると、逆に体に悪影響を及ぼす危険性が示唆されました。

まとめ

糖尿病のイヌと違い、ネコにおいては、糖尿病の処方食のみで血糖値をコントロールできることが多く、基礎疾患や併発疾患を有する症例において糖尿病の処方食を使用する先生もいらっしゃるかと思います。しかし、疾患に対する食事療法を優先せず、糖尿病の処方食を続けていると、基礎疾患や併発疾患の悪化を招くことも否めません。糖尿病ネコには、適切な食事管理を心がけるよう意識してみてください。

獣医師A

【参考文献】
辻本 綾子, 辻本 義和, 腎臓病用療法食に変更したことでインスリン投与量が減量できた猫の2症例, 2019, ペット栄養学会誌, 22 巻, p. 37-39

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