インスリンをプロジンクに変更することで注射を1日1回にできたイヌの例

※2020年6月現在、国内でのプロジンクの供給が停止されているようです。最新の製品の供給状況については販売会社へご確認ください。

プロジンクはネコ用インスリンとして発売されましたが、最近になってイヌでも正式に使用できるようになりました。プロジンクは時間をかけて体内に吸収されるような構造になっているため、個体によっては24時間近く効果が持続することもあります。今回は今まで1日2回だったインスリン注射をプロジンクに変更することで1日1回にすることができたイヌの症例を紹介します。

プロジンク導入前に使用していたインスリン

日本で発売されていたインスリン製剤は4種類であり、動物用として認可されていたのはプロジンクのみでしたが、もともとはネコ用でした。他のインスリンはヒト用であり、イヌ用として認可されたインスリンはありませんでした。

そのため、イヌの糖尿病治療にはヒト用のインスリンを使用していました。薬剤ごとに様々な使用報告がありますが、個人的にはノボリンとランタスの使用経験があったため、今回紹介する症例では、プロジンクに変更する前はランタスを使用していました。ランタス使用時は1日2回の投与で安定して血糖値のコントロールができていました。

しかしながら、飼い主さまとしては1日2回の注射は慣れてきたとはいえ、なかなか負担が大きいものでした。頑張って注射されていましたが、来院するたびに注射をうつことのストレスを訴えられていました。
そこで、最近正式にイヌ用としても使用できるようになったプロジンクに変更することを提案しました。

プロジンクの特徴

プロジンクは、最初はインスリン6量体という形で存在しています。これは6個のインスリンが亜鉛を取り囲んだ構造であり、これをプロタミンというタンパク質が覆っているのです。プロジンクが体内に入るとプロタミンが徐々に分解されます。そして時間をかけて単量体になったインスリンが血液中に吸収され、血糖降下作用を発揮するのです。

血糖降下作用の持続時間には個体差がありますが、血糖値が最下点に至るまでの時間が10時間以上であれば、注射は1日1回でいいと考えられます。

プロジンクを導入して

今回の症例では、0.5IU/kgを1日1回で治療開始しました。数日入院して血糖値曲線を作成しましたが、血糖値の最下点が約12時間だったため、1日1回の投与回数を継続しました。

臨床症状に異常は認められず、1週間後の時点で体重の変化はなく、最低血糖値が150mg/dL前後で安定しました。その後投与量を0.7mg/dLに増量して1週間後に再度血糖値を確認したところ、最低血糖値は110mg/dL前後で安定していたため、このまま治療継続しています。飼い主さまもインスリンの注射回数が1日1回になったことを非常に喜ばれています。

まとめ

イヌのインスリン治療では、低血糖によるトラブルに注意を払う必要があります。これが飼い主さまにとってはなかなかのストレスだったようですが、プロジンクに変更して注射回数が1日1回になることでかなり楽に感じられるとのことでした。全てのイヌの症例で注射回数が1日1回になるわけではありませんが、今後の糖尿病治療ではプロジンクを第一選択薬にしようと考えています。

獣医師T

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