ネコの慢性腎臓病に使用する3つの内服薬の整理と比較

高齢のネコに多い慢性腎臓病は完治させることは不可能なものの、その病態が解明されるにつれ、よりその病態に合った治療法ができるようになってきています。昔から行われている食餌や点滴治療に加え、ネコの慢性腎臓病に使用できる治療薬として認可を得た薬が続々出てきているのです。

そこで今回は、ネコの慢性腎臓病の薬として認可が下りている「ベナゼプリル」(フォルテコール)、「テルミサルタン」(セミントラ)、「ベラプロストナトリウム」(ラプロス)の3剤の概要や適応について、整理しておきましょう。

ネコの腎臓病に使用する薬の作用機序

ベナゼプリル、テルミサルタン、ベラプロストナトリウムそれぞれの作用機序は以下の通りです。

・ベナゼプリル(フォルテコール)

効果効能:慢性腎不全における尿タンパクの漏出抑制

ACE阻害薬であるベナゼプリルは、昇圧作用のあるアンギオテンシンⅡの生成を阻害することで降圧作用を持つ物質です。ネコの慢性腎臓病では、糸球体高血圧により糸球体の変性が進行することが分かっています。ベナゼプリルは糸球体の血圧を下げ、タンパク尿や腎臓の負担を軽減することを目的とした薬です。

・テルミサルタン(セミントラ)

効果効能:慢性腎臓病(慢性腎不全)における尿タンパクの漏出抑制

テルミサルタンはアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)に分類され、アンギオテンシンⅡがアンギオテンシンⅡ受容体AT1に結合して血圧を上昇させるのを防ぐ薬です。タンパク尿を抑制するメカニズムはベナゼプリルと似ていますが、AT1受容体を特異的にブロックするため、ACE阻害薬より特異的な作用を持つネコの腎臓病の治療薬として2014年に販売されました。

・ベラプロストナトリウム(ラプロス)

効果効能:IRISステージ2~3の慢性腎臓病における腎機能低下の抑制及び臨床症状の改善

2017年に新しく販売されたネコ慢性腎臓病治療薬です。ベラプロストナトリウムは、他の2剤と違い、RAA系ではなく、プロスタサイクリン受容体を介して血管拡張作用を持つ薬です。そのほか、抗炎症作用や血管内皮細胞保護作用など、腎臓病の進行を防ぐためのいくつかの作用を持っています。

セミントラとフォルテコールの効能効果は尿タンパクの漏出抑制となっている一方、ラプロスは腎機能低下の抑制や臨床症状の改善といった踏み込んだ効能効果で認可を得ており、その効果が非常に期待されています。

薬剤の種類を決める際に考えるべき3剤の比較

以下の表は、ネコの慢性腎臓病に使用する3剤の比較です。

剤型 回数 費用 適応
フォルテコール  錠剤(フレーバー) 1日1回 安価  UP/C>0.2
セミントラ  液剤 1日1回 中間  UP/C>0.2
ラプロス  錠剤(小) 1日2回 高価  IRISステージ2~3

まず、UP/Cが0.2未満の慢性腎臓病のネコに対してはフォルテコールやセミントラは適応外となり、治療薬としてはラプロスが選択肢となります。ラプロスはIRISステージ2~3のネコであればタンパク尿の有無にかかわらず効果が期待される薬です。

UP/C>2.0の慢性腎臓病のネコに対しては3剤すべてが適応となり、どの薬を選ぶのかは投薬の難易度やかけられる費用によって違ってきます。慢性腎臓病のネコでは食欲が落ちている症例も多く、1日2回の錠剤の投与が難しかったり、投薬することで食欲が低下したりと、ネコにも飼い主さんにもストレスになることもあります。

そういった場合には、1日1回で、フレーバー錠や液体など投薬のしやすいフォルテコールやセミントラなども選択肢として考えておきたい薬です。また、降圧作用や尿タンパクの抑制作用が不十分な場合には、これらの薬を併用して使うことも有用であるという報告もあり、副作用に注意しながら併用してみてもいいかもしれません。

まとめ

ネコの慢性腎臓病の治療には、今回比較した3剤以外にも食欲増進剤や吸着剤、点滴などさまざまな治療方法が選択されます。ラプロスを処方すれば間違いないということではなく、それぞれの症例で、そのネコの性格や飼い主さんの状況を考えて、薬剤を選択してあげることが大切です。それぞれの薬の作用機序や特徴を把握して、それぞれの症例に合った薬を処方できるようにしておきましょう。

獣医師M

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